執筆:薬剤師マル(在宅ファーマ編集長)
「処方箋枚数は変わらないのに、なぜか利益が出ない」「気づけば赤字が3ヶ月続いている」——薬局経営者からこんな相談を受ける機会が、2024〜2026年にかけて急増しています。本記事では、薬局が赤字に陥る典型パターンを整理した上で、緊急性の高い順に「赤字脱却のための7つの打ち手」を、コスト削減と売上拡大の両軸で解説します。撤退判断の目安まで踏み込みました。
薬局が赤字になる3つの典型パターン
パターンA:技術料の単価低下による「じわじわ赤字」
診療報酬改定で技術料が引き下げられ、処方箋枚数は維持しているのに収益が落ちるパターン。最も多い赤字パターンで、気づきにくいのが特徴です。
パターンB:人件費の急騰による「コスト構造崩壊」
薬剤師の採用難で人件費が急上昇し、売上が増えても利益が減るパターン。地方薬局や、若手薬剤師の離職が続いた薬局で多発しています。
パターンC:処方箋枚数の減少による「売上崩壊」
近隣クリニックの閉院・移転・院外処方の見直しなどで処方箋枚数が激減するパターン。短期間で経営状況が悪化するため、緊急対応が必要です。
まず止めるべき「赤字の出血点」3つ
赤字に気づいたら、まずやるべきは「これ以上の悪化を止める」ことです。3つの出血点を即座に止めます。
- 不動在庫の購入停止:3ヶ月以上動いていない薬の追加発注を即止める
- 残業の事前承認制導入:恒常的な残業を抑え、人件費の上振れを止める
- 新規投資の凍結:赤字解消まで設備投資・採用は一時停止
これらは「攻め」ではなく「守り」の打ち手ですが、赤字脱却の前提として必須です。
赤字脱却の7つの打ち手
① コスト削減:薬剤費の見直し(最短効果)
効果目安:粗利率+1〜3% / 期間:1〜2ヶ月
- 後発品への積極切替(バランスを保ちつつ)
- 不動在庫の他店舗・他薬局への融通
- 共同購入グループへの参加
- 使用期限管理の徹底(廃棄ロス削減)
② コスト削減:人件費の最適化
効果目安:月10〜30万円 / 期間:3ヶ月〜
- シフトの可変化(処方箋枚数に連動)
- パート薬剤師の活用拡大
- 事務作業の薬剤師→事務員委任
- 残業の構造的削減(薬局の残業削減方法参照)
③ コスト削減:固定費の見直し
効果目安:月5〜15万円 / 期間:1〜3ヶ月
- 家賃の交渉・移転検討
- 電子薬歴・レセコンの契約見直し
- 水光熱費の削減(LED化、空調管理)
- 不要なサブスク・契約の解約
④ 売上拡大:在宅医療への進出
効果目安:月30〜80万円増 / 期間:6ヶ月〜
処方箋単価が高く、技術料も10〜15倍の在宅医療は、赤字脱却の最有力選択肢です。詳細は在宅薬局は儲かるのかをご覧ください。
- 訪問診療医との連携開始
- サ高住・有料老人ホームへのアプローチ
- 地域包括ケア会議への出席
- 在宅専任薬剤師の育成
⑤ 売上拡大:オンライン服薬指導の導入
効果目安:月5〜20万円増 / 期間:3ヶ月〜
- 処方箋ネット受付の開始
- 遠方患者・通院困難患者の取り込み
- 配送サービスとの組み合わせ
⑥ 売上拡大:OTC・物販・健康相談
効果目安:月5〜15万円増 / 期間:3〜6ヶ月
- OTCの取扱拡大(自費販売)
- サプリメント・健康食品の提案
- 有料健康相談・栄養相談
- 地域連携イベント(健康測定会等)
⑦ 構造改革:店舗統合・撤退判断
効果目安:構造的に黒字化 / 期間:6〜18ヶ月
①〜⑥を試しても黒字化困難な場合、構造的な改革が必要です。
- 近隣店舗との統合
- 処方箋数の少ない店舗の閉鎖
- M&Aによる売却・継承
改善打ち手の優先順位マトリクス
| 打ち手 | 効果 | 難易度 | 期間 | 優先度 |
|---|---|---|---|---|
| ①薬剤費見直し | 中 | 低 | 短 | ★★★ |
| ②人件費最適化 | 大 | 中 | 中 | ★★★ |
| ③固定費見直し | 小 | 低 | 短 | ★★★ |
| ④在宅進出 | 特大 | 高 | 長 | ★★ |
| ⑤オンライン服薬指導 | 中 | 中 | 中 | ★★ |
| ⑥OTC・物販拡大 | 中 | 中 | 中 | ★★ |
| ⑦構造改革 | 特大 | 特高 | 長 | ★(最終手段) |
撤退判断の3つの目安
「いつまで頑張るか」の判断軸を明確にしておくと、経営者の精神的負荷も軽くなります。次の3つに当てはまる場合、撤退・M&Aを真剣に検討すべきです。
- 赤字が18ヶ月以上継続かつ改善傾向が見られない
- キャッシュフローが半年分以下になっている
- 経営者の健康・家族関係に深刻な影響が出始めている
撤退・売却は「失敗」ではありません。次の事業や、地域への薬局存続(M&A経由)のために、冷静に判断することが重要です。
よくある質問
Q. どの打ち手から手をつけるべきですか?
A. ①薬剤費見直し、③固定費見直し、出血点の停止を最初に。これらは1〜2ヶ月で効果が出ます。並行して④在宅進出の準備を始めると、6ヶ月後には大きな転機が訪れます。
Q. 銀行融資を受けるべきタイミングは?
A. 「赤字が続いてキャッシュが減ってから」では遅すぎます。赤字が顕在化する前、または改善計画を立てた直後に融資を受けるのがベスト。改善計画書とセットで申し込むと審査も通りやすくなります。
Q. 在宅進出は経験ゼロでも始められますか?
A. はい。むしろ「やりながら学ぶ」のが現実的です。在宅対応の届出を済ませ、近隣の訪問診療医に挨拶することから始めれば、6ヶ月〜1年で月20〜30件規模になります。
Q. M&Aの相場感はどれくらいですか?
A. 中小薬局の場合、年商の0.5〜1.5倍が相場。在宅対応の比率が高い薬局、立地が良い薬局は1.5〜2倍になることも。詳細は薬局業界のM&A最新動向を参照してください。
まとめ:赤字脱却は「順番」と「速度」が鍵
薬局の収益マイナス対策は、闇雲に動くより正しい順番で打ち手を進めることが重要です。まず出血点を止め、コスト削減で短期改善を実現し、並行して在宅進出など売上拡大の中期施策を仕込む——この3層のアプローチが、最短での赤字脱却を実現します。
そして、18ヶ月の改善トライでも黒字化が見えない場合は、撤退・M&Aを早めに検討すること。「諦める」ではなく「次に活かす」判断ができる経営者こそ、業界で生き残る薬局オーナーです。

