在宅事業の立ち上げや無菌調剤室の整備、二店舗目の出店——薬局がまとまった投資に踏み出すとき、融資や社内稟議の成否を分けるのが事業計画書です。本記事では、在宅特化の事業計画書に必要な章立てと、金融機関の担当者が見ているポイント、審査で落ちる計画書の共通点を実務目線で解説します。具体的な金額・利率・補助制度の条件は年度や地域で変わるため、最新の公募要領や金融機関・自治体の案内で必ず確認してください。
なぜ在宅事業に事業計画書が必要か
事業計画書が求められる場面は、融資の申し込みだけではありません。
- 金融機関からの融資:在宅立ち上げの車両・人員・設備投資の資金調達
- 補助金・助成金の申請:多くの制度で事業計画の提出が必須
- 社内の意思決定:法人内で在宅部門を新設する際の稟議資料
- 自分自身の検証:思い込みを数字に落とし、成立しない計画を早期に見抜く
とくに在宅は、外来と収益構造がまったく異なります。処方せん枚数ではなく「訪問件数×算定」で売上が決まり、人件費と移動コストが重くのしかかる事業です。この構造を理解して書かれた計画書かどうかは、読み手にすぐ伝わります。収益構造の基礎は在宅薬局は儲かるのか?で先に押さえておくと書きやすくなります。
事業計画書の全体構成|章立てテンプレート
在宅の事業計画書は、次の章立てで組むと過不足がありません。
| 章 | 内容 | 読み手が見るポイント |
|---|---|---|
| 1. 事業概要 | 何を・誰に・どの地域で提供するか | 一読で事業がイメージできるか |
| 2. 経営者・体制 | 経歴、在宅の実務経験、人員計画 | 実行できる人材か |
| 3. 市場・商圏分析 | 地域の高齢化状況、医療資源、競合 | 需要の根拠が客観的か |
| 4. サービス・体制計画 | 訪問体制、無菌調剤、緊急対応 | 提供能力に無理がないか |
| 5. 収支計画 | 訪問件数の積み上げと損益の見通し | 前提が保守的で説明可能か |
| 6. 資金計画 | 必要資金の内訳と調達・返済の見通し | 自己資金とのバランス |
| 7. リスクと対応 | 想定リスクと具体的な対応策 | 楽観一辺倒になっていないか |
市場・商圏分析の書き方
在宅の商圏分析は「そのエリアに在宅需要があり、自分が依頼を獲得できる根拠」を示すパートです。公的統計と一次情報を組み合わせます。
- 公的データ:市区町村の高齢化率・要介護認定者数の推移、地域医療構想の資料
- 地域の医療資源:在宅療養支援診療所・訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所の分布
- 競合の状況:在宅対応を掲げる薬局の数と、実際の対応力(無菌調剤・麻薬・24時間対応の有無)
- 一次情報:連携候補の診療所・ケアマネジャーへのヒアリング結果
もっとも説得力があるのは一次情報です。「近隣の診療所から在宅対応薬局が足りないという声を直接確認した」という一文は、統計の羅列より強い根拠になります。
サービス・体制計画|提供能力の裏づけを示す
在宅の計画書で意外と手薄になりがちなのが体制面です。読み手は「本当に回せるのか」を見ています。
- 訪問体制:薬剤師・事務の人数、訪問エリアの範囲、1日に対応できる訪問件数の根拠
- 緊急時対応:夜間・休日の連絡体制と当番の組み方
- 設備投資:車両、在宅対応の調剤機器、必要に応じて無菌調剤室(無菌調剤室の導入ガイド参照)
- 段階計画:個人宅から始めて施設在宅へ広げる、など成長ステップの明示
収支計画の作り方|訪問件数の積み上げで示す
在宅の収支計画は「患者数×訪問頻度×算定」の積み上げで作ります。ポイントは、売上目標から逆算するのではなく、獲得できる患者数の根拠から積み上げることです。
- 連携候補(診療所・施設・ケアマネ)ごとに、紹介見込みの患者数を保守的に見積もる
- 患者区分(個人宅・施設、医療保険・介護保険)ごとに訪問頻度を設定する
- 算定単価を掛けて月次売上を計算する(単価の根拠は最新の告示・点数表を明記)
- 人件費・車両費・移動時間のコストを差し引き、損益分岐点に到達する月を示す
計算の具体的な進め方は在宅薬局の収益シミュレーションと在宅薬局の損益分岐点で詳しく解説しています。楽観・標準・悲観の3パターンを併記すると、読み手の信頼度が一段上がります。
資金計画|融資担当者が見る3つのポイント
資金計画のパートで金融機関の担当者が見ているのは、細かい数字の正確さ以上に次の3点です。
- 資金使途の明確さ:何にいくら使うのかが見積書などの裏づけとともに示されているか
- 自己資金とのバランス:全額借入に頼らず、自己資金や既存事業のキャッシュで一部を賄えるか
- 返済原資の現実性:収支計画の利益から無理なく返済できる計画になっているか
公的融資・補助金の制度は年度ごとに条件が変わります。金額や要件をこの種の記事の情報で固定せず、必ず最新の公募要領・金融機関の案内で確認し、計画書にも参照した資料名と年度を明記しましょう。開業全体の費用項目の洗い出しには薬局の開業コスト完全ガイドが使えます。
リスクと対応策の書き方
リスクの章は「書くと不利になる」と思われがちですが、逆です。リスクを直視し対応策まで書いてある計画書のほうが、実行力があると評価されます。在宅で挙げるべき代表的なリスクは次の通りです。
| リスク | 対応策の例 |
|---|---|
| 患者獲得が計画を下回る | 連携先開拓の営業計画を前倒しし、悲観シナリオでも資金が持つ設計にする |
| 薬剤師の採用難・離職 | 採用チャネルの複線化、業務の標準化で属人化を防ぐ |
| 報酬改定による単価変動 | 特定の算定項目に依存しない患者構成にする |
| 主要連携先への依存 | 紹介元を複数確保し、一社依存の比率を下げる |
通る計画書・落ちる計画書の違い
最後に、審査を通過する計画書と落ちる計画書の典型的な違いをまとめます。
| 観点 | 通る計画書 | 落ちる計画書 |
|---|---|---|
| 需要の根拠 | 公的統計+連携先ヒアリングの一次情報 | 「高齢化が進んでいるから需要はある」で終わる |
| 売上の作り方 | 患者数の積み上げで説明 | 目標額から逆算した願望の数字 |
| シナリオ | 悲観シナリオでも資金が回る | 楽観シナリオしかない |
| 体制 | 誰が・何件・どう回すかが具体的 | 人員計画が「随時採用」で曖昧 |
| 数字の出典 | 参照資料と年度を明記 | 数字の根拠が書かれていない |
まとめ|積み上げの数字と一次情報が計画書を強くする
在宅の事業計画書は、7章構成のテンプレートに沿って、需要の根拠を一次情報で示し、売上を患者数の積み上げで作り、悲観シナリオでも資金が回ることを示せば、審査に耐える骨格になります。制度や金額の条件は必ず最新の原典・公募要領で確認し、出典を計画書に明記してください。書き上げた計画書は、融資が通った後も経営の羅針盤として毎月の実績と突き合わせて使うことで、初めて本当の価値を発揮します。
よくある質問(FAQ)
事業計画書は何ページくらい書けばいいですか?
分量より構成の網羅性が重要です。事業概要・体制・市場分析・サービス計画・収支計画・資金計画・リスク対応の7章が揃っていれば、簡潔でも評価されます。逆に分厚くても根拠のない数字が並ぶ計画書は通りません。
在宅未経験でも融資は受けられますか?
経験の不足は、体制面の裏づけで補えます。在宅経験者の採用計画、研修の受講、連携候補の確保など「実行できる根拠」を具体的に示すことが重要です。経営者自身の薬局実務経験も評価の対象になります。
収支計画の数字はどこまで細かく作るべきですか?
月次で、患者数×訪問頻度×算定単価の積み上げが説明できる粒度が目安です。単価の根拠となる算定項目は最新の告示・点数表を参照し、出典と年度を明記してください。楽観・標準・悲観の3シナリオを用意すると説得力が増します。
補助金の情報は計画書にどう書けばいいですか?
補助金は採択されない可能性があるため、資金計画の主軸に据えないのが原則です。活用を想定する場合も、制度名と参照した公募要領の年度を明記し、採択されなかった場合の代替計画をあわせて示します。
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

