「いつもの薬が入ってこない」——2020年末の後発医薬品メーカーの品質不祥事に端を発した医薬品の供給不安は、2026年になっても完全には解消していません。厚生労働省の医療用医薬品供給状況報告では、なお約2割の品目で限定出荷・供給停止が続いているとされ、特に後発品の多い領域で影響が残っています。
在宅医療の現場は、外来よりも供給不足の影響を受けやすい環境です。処方が長期・多剤にわたり、患者さん自身が薬局に来て相談できないからです。本記事では、供給不足の現在地と、在宅薬局が今日からできる実務対応を整理します。
2026年の供給不足はどうなっているか
- 全体としては改善傾向:メーカーの増産投資や業界再編が進み、厚労省調査でも「相当程度改善」との評価。ただし成分・製品による差が大きい
- 限定出荷は依然残る:咳止め・去痰薬・抗菌薬など、流行に左右される領域は需要が跳ねると再び逼迫しやすい
- 情報基盤が整備された:2026年3月末から国の「医薬品安定供給・流通確認システム」が稼働し、供給状況をより迅速に確認できる体制に
- 2026年度調剤報酬改定でも対応:供給確保が重要な医薬品の備蓄を評価する体制加算が新設され、薬局の備蓄体制が施設基準に組み込まれた(要件の詳細は最新の告示・疑義解釈で確認)
在宅現場で起きること・起きたときの対応
| 場面 | 起きること | 対応の型 |
|---|---|---|
| 定期処方の欠品 | 同一薬の確保ができず配薬が組めない | 発注ルートの複線化(卸2社以上)+在庫共有できる近隣薬局のネットワークを平時からつくる |
| 代替薬への変更 | 規格・剤形・メーカーが変わり患者が混乱 | 変更点を書面+口頭で説明。一包化の患者は分包紙の印字で識別できるよう配慮 |
| 施設患者の一斉変更 | 同一薬を多数の入居者に使っており影響が大きい | 施設の看護・介護職に「見た目が変わる」ことを先回りで共有し、服薬事故を防ぐ |
| 出荷再開の見込みが立たない | 長期の代替が必要 | 医師に治療方針レベルでの変更(成分変更)を提案。処方提案の文例の型が使える |
代替調整の実務5ステップ
- 1. 供給情報の確認:卸の情報+国の供給状況システムで「いつまで・どの程度」の見込みを把握する
- 2. 院内・局内の在庫確認:自局の在庫と使用患者をリスト化し、影響範囲を先に固定する
- 3. 代替候補の選定:同成分他社→同効他成分の順で候補を整理し、規格・剤形・相互作用を確認
- 4. 医師への提案:「事実→評価→提案→委ねる」の型で。緊急性が低ければトレーシングレポートで
- 5. 患者・介護者への説明と記録:見た目の変化・飲み方の変更点を伝え、薬歴に変更理由を残す
患者・家族への説明で使えるフレーズ
| 避けたい言い方 | 伝わる言い方 |
|---|---|
| 「薬が手に入らないんです」 | 「全国的にこのお薬の供給が不安定になっていて、同じ効き目のお薬に一時的に変更をご提案しています」 |
| 「メーカーが違うだけで同じです」 | 「中身の成分は同じで、見た目(色・形)が変わります。袋に印字してあるので確認できます」 |
| 「いつ戻るかわかりません」 | 「供給が安定したら元のお薬に戻せます。状況は私たちが継続して確認しています」 |
供給不足は薬局の責任ではありませんが、患者さんから見える「窓口」は薬局です。説明の質がそのまま信頼につながります。
平時からの備え——備蓄とBCPの考え方
2026年度改定で備蓄体制が評価されるようになったのは、供給不安が「災害級の平時リスク」と位置づけられたということです。在宅患者リストと必須医薬品の優先順位づけは、災害対策とほぼ同じフレームで整理できます。薬剤師の災害対策ガイドの備蓄の考え方がそのまま流用できます。また、欠品対応で残薬の活用場面が増えるため、残薬管理の実務もあわせて整えておくと対応力が上がります。
買いだめはしない——供給不足時代の在庫3原則
欠品を恐れて多めに仕入れたくなりますが、過剰在庫は期限切れロスと資金繰りの悪化という別のリスクを生みます。供給不足時代の在庫は次の3原則で運用します。
- 「全部を厚く」ではなく「優先品目だけ厚く」:在宅患者の生命維持に直結する薬・代替が利かない薬を優先備蓄リストにし、それ以外は通常在庫を維持する
- 在庫は数字で見る:品目ごとの使用量と在庫月数を月次で確認し、「なんとなく不安だから多め」を排除する
- 地域で持ち合う:全品目を1局で備蓄するのは不可能。近隣薬局との在庫融通ネットワークが実質的な備蓄能力になる
過剰在庫は薬局経営を静かに圧迫します。不動在庫・期限切れロスの管理は経営指標としても重要です(薬局の赤字対策)。
情報収集チャネルを整える
欠品対応のスピードは「どれだけ早く正確な供給情報をつかめるか」で決まります。使うべき情報源を役割別に整理しておきましょう。
| 情報源 | わかること | 使いどころ |
|---|---|---|
| 国の供給状況報告・安定供給流通確認システム | 品目ごとの出荷状況(通常/限定/停止)と見通し | 代替検討の起点。患者説明の根拠にも使える |
| 卸の担当者・受発注システム | 自局に実際に入るかどうか・入荷時期 | 日々の発注判断。複数卸で情報の突き合わせを |
| メーカーの供給案内 | 出荷再開時期・限定出荷の理由 | 長期化しそうな品目の見極め |
| 近隣薬局・地域薬剤師会のネットワーク | 在庫の融通・地域での逼迫状況 | 緊急時の駆け込み先。平時の関係づくりが前提 |
ケースで考える欠品対応
ケース1:施設患者に共通する薬が限定出荷になった
同じ薬を複数の入居者に使っている施設在宅では、1品目の欠品が数十人分の配薬に波及します。まず影響患者をリスト化し、施設の看護職と「いつの配薬分から変わるか」を共有。医師への代替提案は患者個別ではなく施設単位でまとめて行うと、処方変更の抜け漏れを防げます。変更後最初の配薬では、分包紙の印字と薬情で「見た目が変わったこと」を職員に必ず伝えます。
ケース2:流行期に咳止め・去痰薬が一斉に逼迫した
季節性の逼迫は「全員に十分な量を出す」ことができなくなるのが特徴です。定期で長期処方されている患者と、急性症状で今すぐ必要な患者の優先度を整理し、医師と「日数を短く区切る」「頓用へ切り替える」といった調整を相談します。機械的な出し惜しみではなく、処方設計の相談として持ちかけるのがポイントです。
よくある質問(FAQ)
医薬品の供給不足はいつまで続きますか?
全体としては改善傾向にありますが、成分・製品によって差が大きく、完全な正常化の時期は見通せていません。流行期には咳止め等が再び逼迫することもあるため、当面は「不足が起こりうる前提」での体制づくりが現実的です。
ジェネリックからメーカーが変わると効果は変わりませんか?
有効成分と規格が同じであれば効果は同等とされています。ただし見た目(色・形・包装)が変わるため、特に高齢の患者さんには変更点を丁寧に説明し、服薬間違いを防ぐことが大切です。
在宅患者の薬が欠品したとき、まず何をすべきですか?
まず自局の在庫と影響患者を把握し、卸への発注状況と供給再開見込みを確認します。そのうえで代替候補を整理して医師に提案し、患者・介護者へ変更内容を説明する、という順番が基本です。
最終更新日:2026年7月7日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

