在宅・介護現場の残薬管理と整理術【薬剤師向け】──介護職との連携・状況別対策・仕組み化

在宅患者の残薬整理術|在宅ファーマ

在宅訪問で患者宅を訪れると、引き出しやタッパーの中に大量の残薬を発見することがあります。75歳以上の高齢者だけでも、飲み残し・飲み忘れによる薬剤費は年間約475億円と推計されており(平成19年度厚生労働省補助金事業・日本薬剤師会調査)、日本全体で見ると膨大な医療費のムダが発生しています。

しかし残薬は単なるムダではありません。飲み忘れが続いている証拠であり、治療効果の低下や症状悪化のサインでもあります。在宅薬剤師にとって残薬整理は、患者の安全を守りながら医療費適正化に貢献できる重要な業務です。

この記事では、残薬が発生する原因の分析から、整理の具体的手順、医師への減薬提案の仕方、そして再発防止の仕組みづくりまでを解説します。

目次

残薬はなぜ発生するのか

自宅の引き出しにたまった残薬
残薬は生活の中に静かにたまっていく。

残薬が生まれる背景には、患者側の事情と医療体制側の事情があります。

患者側の原因として最も多いのが「飲み忘れ」です。特に認知機能が低下した高齢者では、朝は飲めても昼を忘れるといったパターンが頻繁に見られます。次に多いのが「自己判断での中止」で、症状が改善したと思い込んで服薬をやめるケースです。副作用の不安から飲まない患者さんもいます。

医療体制側の原因としては、複数の医療機関からの重複処方、用法変更時の旧薬回収漏れ、そして「念のため多めに出す」という処方慣行が挙げられます。在宅患者は通院が困難なため、一度に28日分や56日分が処方されることも多く、調整がしにくい構造になっています。

残薬整理の5ステップ

患者と一緒に残薬を確認する薬剤師
残薬整理は患者と一緒に数えるところから始まる。

ステップ1:全量の把握

訪問時にまず行うのが、家中の薬を一か所に集めることです。冷蔵庫の中、仏壇の引き出し、ベッドサイドのテーブルなど、薬が分散保管されていることは珍しくありません。「他にお薬はありませんか?」と聞いても「ない」と答える患者さんが多いので、「冷蔵庫にシロップ薬はありますか?」「目薬はどこに置いていますか?」と具体的に聞くのがコツです。

ステップ2:分類と期限確認

集めた薬を以下の4グループに分類します。

分類判断基準対応
継続服用中現在の処方に含まれている数量を記録し在庫管理
処方変更で不要用法変更や中止で残った医師に報告のうえ回収
期限切れ使用期限を超過している廃棄(患者に説明のうえ)
不明薬ヒートが切れている等で特定困難鑑別後に判断

一包化されていない薬はヒートシートの刻印から薬剤を特定します。一包化済みの場合は、薬歴や処方箋の履歴と照らし合わせて特定します。

ステップ3:数量の記録

残薬の量を正確に記録します。「アムロジピン5mg 42錠(約6週間分)」のように、日数換算まで記載すると医師への報告時に伝わりやすくなります。この記録は後のトレーシングレポートや薬歴記載の根拠にもなります。

ステップ4:医師への報告と提案

残薬が多い場合、次回処方で日数調整を提案します。報告のポイントは「事実 → 原因推定 → 提案」の3段構成です。

たとえば「アムロジピン5mgが42錠残っています。患者さんに確認したところ、夕食後の服用を忘れることが多いとのことです。次回処方で日数調整をご検討いただけますでしょうか」という形です。

原因が飲み忘れであれば服薬支援の強化を、副作用であれば代替薬の検討を併せて提案します。

ステップ5:再発防止策の実施

残薬を整理して終わりではなく、再発防止の仕組みを作ることが重要です。

一包化の提案、お薬カレンダーの設置、服薬タイミングの簡素化(1日3回→2回への集約提案)、ヘルパーや家族との服薬確認の連携など、患者さんの生活パターンに合わせた方法を選びます。

残薬整理で使える算定

在宅での残薬管理は診療報酬上も評価されています。

算定項目点数要件概要
調剤時残薬調整加算30点(かかりつけ薬剤師の場合50点)残薬確認を踏まえて処方日数等が調整された場合(2026年改定で重複投薬・相互作用等防止加算から再編)
服用薬剤調整支援料1125点6種類以上→2種類以上減薬
服用薬剤調整支援料2令和8年6月1日〜令和9年5月31日は算定できません減薬提案を行った場合(上記期間は算定不可のため、当面は支援料1と調剤時残薬調整加算で組み立てます)
服薬情報等提供料区分により異なる(最新の点数表を確認)残薬情報を医師に提供

ポリファーマシー対策と組み合わせると算定機会が増えるのは服用薬剤調整支援料1です。服用薬剤調整支援料2は、令和8年6月1日から令和9年5月31日までの間は算定できません(調剤点数表 区分14の3(2)サ)。この期間は減薬提案そのものを止める必要はありませんが、算定の組み立ては支援料1と調剤時残薬調整加算を軸に考えます。令和9年6月以降の取り扱いは、その時点の告示・通知でご確認ください。

医療保険・介護保険での残薬管理の違い

在宅での残薬管理は、患者がどちらの保険で訪問を受けているかによって、関わる報酬や記録の流れが変わります。「医療 残薬管理」「介護 残薬管理」で混乱しやすいポイントを整理します。

区分訪問の枠組み残薬対応の進め方
医療保険在宅患者訪問薬剤管理指導料(介護認定なしの通院困難者)残薬を確認→医師へ報告し処方変更・日数調整を提案。トレーシングレポートで情報共有
介護保険居宅療養管理指導費(要介護・要支援認定者)残薬状況をケアマネ・医師と共有し、ケアプランや次回処方に反映

いずれの保険でも、残薬を「見つけて終わり」にせず、医師への処方提案(残薬調整)につなげることが薬剤師の価値です。提案の具体的な書き方はトレーシングレポートの書き方、算定の前提となる訪問の要件は居宅療養管理指導の算定要件、2026年の改定点は居宅療養管理指導の2026年改定まとめもあわせてご覧ください。

介護スタッフと連携した残薬管理の実務

残薬に最初に気づくのは、多くの場合、毎日利用者宅に入る介護スタッフです。薬剤師が月数回の訪問で把握できる情報には限りがあるため、介護職との連携ルートを仕組みとして持てるかどうかが残薬管理の精度を大きく左右します。

介護職ができること・できないこと

介護職員は、原則として一包化された薬の服薬介助(声かけ・見守り・薬の手渡し)を行うことができます。一方で、薬のセット(配薬)や用量の判断、体調をみて服薬の可否を判断することは行えません。この線引きを介護側と共有しておくと、「どこからが薬剤師の仕事か」が明確になり、残薬の発見から調整までの流れがスムーズになります。

連携の実務パターン

  • 気づきの共有ルートを1本化する:残薬を見つけたときの連絡先(薬局の電話・FAX・連絡ノート・ICT)を1つに決めておく
  • 服薬カレンダーを共通言語にする:介護職が見ても「飲めていない」が一目で分かる形にセットする
  • 担当者会議で残薬の扱いを議題に載せる:残薬が続く利用者は生活パターン側に原因があることが多く、介護側の情報が解決の糸口になる

状況別・残薬対策の実務

残薬対策は「誰が薬を管理しているか」で打ち手が変わります。訪問先でよくある4つの状況別に整理しました。

状況起きやすいこと有効な打ち手
独居飲み忘れの蓄積・保管場所が複数に分散服薬カレンダーの設置場所を生活動線上に固定。訪問ごとに全保管場所を棚卸し
老老介護介護者自身の負担で管理が崩れる管理を求めすぎない。優先度の高い薬に絞る処方提案とヘルパー連携で分担
認知機能の低下二重服用・拒薬・隠してしまう一包化と声かけ役の一本化。認知症患者の服薬管理の対応が基本
施設入居職員の配薬体制と処方内容のミスマッチ配薬タイミングを施設のオペレーションに合わせる用法提案が効く

残薬を「発生させない」仕組みに変える

回収と日数調整は対症療法です。発生源を断つには、処方と生活のズレを小さくする次の打ち手をセットで回します。

  • 用法の集約提案:服用回数が多いほど残薬は増える。生活リズムに合わせた集約を医師に提案する(処方提案の文例集
  • ポリファーマシーの整理:そもそも薬の種類が多すぎないかを定期的に見直す(ポリファーマシー対策
  • 訪問時の定期棚卸し:「残薬確認」を毎回の訪問ルーチンに組み込み、増減をトレンドで見る
  • 介護職との情報連携:飲めなかった日の記録を共有してもらう仕組みをつくる(介護現場の残薬管理

回収した残薬の取り扱いルール

患者宅から回収した残薬は、他の患者への転用(再利用)はできません。品質が保証できないためです。廃棄は薬局の手順と自治体のルールに従い、麻薬・向精神薬が含まれる場合は法令上の廃棄手続きが別途必要になります。判断に迷う薬剤は自局だけで処理せず、卸や行政(保健所・薬務課)に確認するのが安全です。

筆者の現場から

ある80代の患者さんの自宅を初回訪問したとき、台所の引き出しから紙袋3つ分の残薬が出てきたことがあります。金額にして推定8万円分。ご本人は「ちゃんと飲んでいるつもりだった」とおっしゃっていました。

一つずつ確認していくと、3年前に中止になった薬まで混ざっていました。期限切れの薬を除外し、現在の処方と照合して本当に必要な薬だけを整理した結果、服用薬は12種類から8種類に減りました。主治医からは「こういう報告は助かる」と言っていただけました。

残薬整理は地味な作業ですが、患者さんの安全と医療費の適正化の両方に直結する、在宅薬剤師ならではの仕事です。


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参考リンク


監修・編集:在宅ファーマ編集部(薬剤師・実務7年目)
最終更新日:2026年6月13日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的データ・業界資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

出典・参考(一次情報)

本記事の点数・単位数・算定要件は、公開時点の厚生労働省の告示・通知・疑義解釈資料等にもとづいています。実際の算定にあたっては、必ず最新の一次資料をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

余った薬は薬局に持って行っていいですか?

はい。むしろ持参をおすすめします。薬剤師が残薬を確認することで、飲み方の調整や処方日数の調整につながり、無駄な薬代の削減にもなります。在宅訪問を受けている方は訪問時にそのまま見せてください。

回収した残薬を別の患者に使うことはできますか?

できません。一度患者さんの手に渡った薬は保管状態が保証できないため、他の患者さんへの転用は認められていません。薬局の手順に沿って適切に廃棄します。

残薬があると処方はどう変わりますか?

薬剤師が残薬の数を確認して医師に報告し、次回処方の日数が調整されることがあります。患者さんの負担額が減るだけでなく、実際の服薬状況が医師に伝わることで治療全体の見直しにつながります。

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この記事を書いた人

薬剤師マルのアバター 薬剤師マル 在宅ファーマ編集長

薬剤師(実務7年目)。公認スポーツファーマシスト/サプリメントアドバイザー。調剤薬局・在宅医療の現場経験をもとに、在宅薬剤師と薬局経営者へ向けて、算定・実務・経営のリアルな情報を発信しています。記事は厚生労働省の告示・通知や公的データ・業界資料を確認のうえ作成し、最新の改定情報の反映に努めています。

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