ドラッグストアの調剤併設店は増え続けており、この流れが反転する材料は見当たりません。しかし結論からいえば、中小薬局が取るべき道は「正面から戦わないこと」です。本記事では、調剤併設が拡大する構造要因を整理したうえで、中小薬局が優位に立てる領域と、対抗策ごとの具体的なステップを解説します。
ドラッグストア調剤併設が増える3つの構造要因
- 物販とのシナジー:処方箋を待つ時間が物販の購買機会になり、調剤単体では成立しにくい立地でも収益が組み立てられる
- 立地と営業時間:大型駐車場・夜間営業・年中無休など、生活動線上の利便性で門前立地に依存しない集客ができる
- 人材採用力:知名度・給与水準・教育制度で薬剤師採用に強く、多店舗展開を人員面で支えられる
これらはいずれも資本力に根ざした構造要因であり、中小薬局が同じ土俵で対抗するのは困難です。大手同士の統合が進む業界再編の流れは「薬局業界のM&A最新動向」で、異業種プラットフォーマーの調剤参入という新しい動きは「「Ponta薬局」開局で読む大手プラットフォーマーの調剤参入」で整理しています。
正面から戦うと不利な領域・勝てる領域
戦い方の整理として、競争軸ごとの優劣を表にまとめます。
| 競争軸 | ドラッグストア併設 | 中小薬局 |
|---|---|---|
| 価格・ポイント・品揃え | 物販とのセットで圧倒的に強い | 正面から戦わない |
| 立地・営業時間 | 大型立地・長時間営業で優位 | 正面から戦わない |
| 在宅対応 | 店舗網はあるが個別対応の仕組み化が難しい | 地域密着の機動力で優位を築ける |
| かかりつけ機能 | 担当薬剤師の異動・入れ替わりが起きやすい | 同じ薬剤師が長く担当し、関係を蓄積できる |
| 専門性(無菌調剤・麻薬・小児等) | 全店で均質に展開しにくい | 1店舗への集中投資で地域の受け皿になれる |
ドラッグストアと調剤薬局のビジネスモデルの違いは「ドラッグストアと調剤薬局の違い」で詳しく解説しています。
対抗策1:在宅で「動く薬局」になる
在宅は店舗の立地や売場面積が関係ない競争領域です。居宅療養管理指導(単一建物1人518単位/2〜9人379単位/10人以上342単位、原則月4回まで)を軸に、医療機関・ケアマネジャーとの関係で患者がつながる構造は、資本力では短期間に複製できません。着手のステップは次のとおりです。
- 算定体制の点検:すでに在宅をやっているなら取りこぼしの解消が最優先。「在宅算定 まるごと判定(無料)」で自局の算定漏れを先に潰し、収益の土台を固める
- 受け入れ体制の整備:訪問専用の時間帯を店舗シフトごと固定し、報告書テンプレートを準備する
- 小さな実績づくり:通院が難しくなってきた既存患者や単発の依頼から始め、初回対応の質で次の紹介につなげる
- 紹介元の開拓:診療所・ケアマネジャー・地域包括支援センターへ「できること一覧」を持って回る。営業の型は「在宅の依頼を増やす薬局の営業完全ガイド」を参照
在宅は成果が出るまでに時間がかかる分、先に始めた薬局ほど有利になります。医療機関やケアマネジャーとの信頼は一朝一夕には積めないため、大手の出店が話題になってから慌てて始めるのではなく、余力のあるうちに着手しておくこと自体が最大の防御になります。
対抗策2:かかりつけ機能で「人につく」関係を作る
ドラッグストアの弱点は、店舗の便利さは強くても「あの薬剤師さんに相談したい」という個人への信頼を蓄積しにくいことです。かかりつけ薬剤師として同じ患者を継続的に担当し、受診勧奨や残薬整理まで踏み込む関係は、中小薬局の最大の資産になります。
- 対象患者の洗い出し:来局頻度が高く、多剤併用や複数科受診のある患者からリストアップする
- 同意取得の声かけを定型化する:「私が継続して担当します」という提案トークをスタッフ全員で揃える
- 担当の継続性を仕組みで守る:担当患者の来局日にはその薬剤師が対応できるよう、シフト側で配慮する
- 関係を深める行動を増やす:受診勧奨・残薬整理・フォローアップ連絡など、次の来局につながる接点を積む。要件と実務は「かかりつけ薬剤師ガイド」を参照
ポイントは、「担当が変わらないこと」を個人の頑張りではなく薬局の仕組みとして保証することです。大手がまねしにくいのは、この継続性そのものだからです。
対抗策3:専門性と多職種連携で紹介の輪を作る
全店均質が前提の大手チェーンは、無菌調剤・医療用麻薬・小児在宅のような手のかかる専門領域を面で展開しにくいのが実情です。中小はここに1点集中できます。
- 領域を1つ選ぶ:地域で担い手が少ない領域(無菌調剤・麻薬・小児在宅など)を1つに絞り、設備・研修に集中投資する
- 「できること」を明文化する:訪問看護ステーション・地域包括支援センターへ、対応可否の一覧を1枚で伝える
- 病院との接点を定例化する:退院時カンファレンスへの参加など、紹介が生まれる場に定期的に顔を出す
- 実績を発信する:受けた症例の類型(固有名を除く)を紹介元に報告し、「この領域はあの薬局」という認知を固める
どの対抗策から着手するか:判断の目安
| 自局の状況 | 最初に着手すべき策 | 理由 |
|---|---|---|
| 外来患者は多いが在宅は未着手 | 対抗策2(かかりつけ) | 既存患者という資産をそのまま活かせ、投資がほぼ不要 |
| 在宅をすでに少しやっている | 対抗策1(在宅の拡大) | 算定漏れの解消と体制整備だけで収益が伸びる余地が大きい |
| 近隣に大手併設店が出店してきた | 対抗策2→1の順 | 患者流出を関係の強さで防ぎつつ、立地に依存しない収益源を育てる |
| 資金・人員に余力がある | 対抗策3(専門性) | 設備・研修への先行投資が参入障壁になり、長期の優位を築ける |
共通する原則は、投資が小さく既存資産を活かせる策から順に着手することです。上の表はあくまで目安なので、自局の患者構成と人員の余力に照らして読み替えてください。かかりつけ強化→在宅→専門性の順が、多くの中小薬局にとって現実的な並びになります。また、どの策を選ぶにしても「やらないことを決める」のが先です。価格競争・ポイント施策・営業時間の延長といった規模の競争に踏み込む施策は原則捨てる、と決めるだけで、限られた人員と資金の分散を防げます。
「規模の競争」から「関係の競争」へ
調剤併設ドラッグストアとの競争は、店舗数・価格・利便性という「規模の競争」で見れば分が悪い勝負です。しかし在宅・かかりつけ・専門性はいずれも、患者・医療機関・地域との関係の蓄積がものをいう「関係の競争」であり、ここでは規模は必ずしも有利に働きません。自局の商圏で「誰との関係を深めれば選ばれ続けるか」から逆算することが、中小薬局の現実的な生存戦略です。
よくある質問(FAQ)
ドラッグストアの調剤併設はなぜ増えているのですか?
物販とのシナジー、生活動線上の立地と長い営業時間、薬剤師の採用力という資本力に根ざした構造要因があるためです。この流れ自体は今後も続くと見るのが自然です。
中小薬局はドラッグストアに勝てないのでしょうか?
価格・立地・営業時間で正面から戦えば不利ですが、在宅・かかりつけ・専門性といった「関係の蓄積」が効く領域では、規模は必ずしも有利に働きません。戦う土俵の選択が重要です。
対抗策はどこから手をつけるべきですか?
既存患者との関係を深めるかかりつけ強化と、在宅の算定体制の点検が着手しやすい入口です。設備投資が必要な専門性強化は、その後に検討するのが現実的です。
近所に大手の併設店ができました。何から守るべきですか?
まず守るべきは「人につく」関係です。かかりつけの同意取得と担当の継続性を固めて患者流出を防ぎつつ、立地に依存しない在宅の収益源を並行して育てるのが定石です。
最終更新日:2026年7月2日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

