「在宅薬局は儲かるのか」という収益構造の全体像——技術料の積み上げで儲かる仕組み・利益率・成功する薬局の特徴——は「在宅薬局は儲かるのか?収益構造・利益率・成功する薬局5つの特徴」で詳しく解説しています。本記事はその続編として、立ち上げ1年目に実際に何が起きるのかに絞ります。届出から最初の契約、件数の拡大、そして収支が噛み合うまで。フェーズごとに「どんな壁が来るか」「何を打つべきか」を時系列で整理しました。
1年目の全体像:収益より先にコストが立ち上がる
在宅は契約にもとづいて毎月訪問するストック型の収益です。1人の契約が毎月技術料を生み続ける構造は強力ですが、裏を返せば契約ゼロの状態では売上もゼロ。一方で、人の時間・訪問手段・システムといったコストは初日から発生します。立ち上げ期のしんどさの正体は、この「コスト先行・収益後追い」の時間差です。
編集部の感覚では、最初の1〜3か月は届出・体制づくり・営業が中心で収益はほぼ立たず、収支が噛み合うまでは案件・地域により幅があるものの半年〜1年程度を見込むのが現実的です。1年目を次の4フェーズに分けて見ていきます。
| フェーズ | 主な仕事 | 収支の状態 |
|---|---|---|
| 準備期 | 届出・免許、受け入れ体制、記録テンプレの整備 | コストのみが先行する |
| 立ち上げ期 | 医師・ケアマネへの営業、最初の契約の獲得 | 単発の売上がぽつぽつ立つ |
| 拡大期 | 施設契約の獲得、訪問ルートと記録の仕組み化 | 件数が積み上がり赤字幅が縮む |
| 安定期 | 算定精度の点検、断る基準の運用、効率化 | 毎月の技術料が固定費を吸収し始める |
フェーズの長さは地域・営業力によって変わりますが、順番はほぼ共通です。自局がいまどのフェーズにいるかを意識するだけで、打つべき手の優先順位が明確になります。
フェーズ1:準備期の壁——「営業を始められる状態」を作る
準備期の目的は、依頼が来たときにすぐ受けられる状態を先に作ることです。営業をかけてから慌てて体制を整えると、せっかくの初回依頼を取りこぼします。最低限そろえるべきは次の4点です。
- 届出・免許関係:在宅関連の届出や麻薬小売業者免許など、自局が受けられる依頼の範囲を決める手続きを先に済ませる(要件は最新の告示・原典で確認)
- 訪問時間帯の確保:外来と兼務なら「この曜日のこの時間は訪問に出る」と店舗シフトごと固定する
- 記録・報告書のテンプレート:訪問報告書・薬歴のひな形を先に作り、1件目から残業を生まない形にする
- 訪問手段と保険:車・自転車などの手段、駐車場所の考え方、事故時の保険を決めておく
もうひとつ準備期に決めておきたいのが、「誰が最初の訪問担当になるか」です。兼務体制で始める場合、担当者は外来と在宅の両方を抱えることになります。担当者の頑張り任せにせず、訪問に出ている間の外来の応援ルール、緊急連絡の受け方、担当者が休みの日のバックアップまで含めて店舗の仕組みとして決めておくと、1件目からの運用が安定します。
フェーズ2:最初の契約の壁——「実績がない」をどう超えるか
立ち上げ期で最も多くの薬局が止まるのがここです。医師やケアマネジャーに挨拶へ行っても、「実績はありますか」と聞かれて言葉に詰まる。実績ゼロの時期は、大きな契約を狙わず、小さく確実な入口から入るのが定石です。
- 「できること一覧」を1枚にまとめる:無菌調剤の可否、麻薬対応、緊急時対応など、相手が知りたいのは意気込みではなく対応可否の事実です
- 単発・臨時の依頼を拾う:退院直後の一時対応や臨時処方など、単発の依頼こそ最初の実績になります
- 既存の外来患者から始める:通院が難しくなってきたかかりつけ患者は、最初の在宅患者の有力候補です
- 1件目を全力で回す:初回訪問の報告書の質とスピードが、次の紹介につながる最大の営業材料になります
営業先の選び方と回り方は「在宅の依頼を増やす薬局の営業完全ガイド」、診療所開拓に絞った実践は「在宅の依頼を医師から得る営業」で詳しく解説しています。
フェーズ3:拡大期の壁——施設契約とオペレーション崩壊
個人宅の実績が数件たまると、施設からの声がかかる可能性が出てきます。施設契約が決まると件数は一気に増えます(決まる時期は営業次第で読みにくいのが実情です)。施設在宅は移動時間がほぼゼロになるため時間あたりの収益が高くなりやすく、件数の土台を施設でつくり個人宅を上乗せする組み合わせが定石です。
ただし拡大期には、立ち上げ期には見えなかった壁が現れます。件数が増えた瞬間に記録が回らなくなり、帰局後の残業が常態化するのです。訪問の合間に記録を完結させる運用と、テンプレートの磨き込みを、件数が増える「前」に仕込んでおくことが拡大期を乗り切る条件になります。
損益の分岐点をどう見るか:件数×単位数と固定費の綱引き
1年目の収支は「毎月の技術料の積み上げが、人件費・車両費などの固定費をいつ超えるか」で決まります。見るべき数字はシンプルで、①毎月の契約者数と訪問回数、②1件あたりにかかる時間とコスト、③算定の取りこぼしの有無の3つです。件数×単位数でいくらになるかは「在宅薬局の収益シミュレーション」で、黒字化ラインの逆算は「在宅薬局の損益分岐点」で、1件あたりコストの分解は「在宅訪問1件あたりのコスト」で、それぞれ具体的に試算できます。
特に③の算定漏れは、立ち上げ期こそ致命的です。訪問という原価をかけながら請求が漏れていれば、黒字化は理由もわからないまま遠のきます。自局の取りこぼしは「在宅算定 まるごと判定(無料)」で早めに点検しておきましょう。
月次で追う指標は、契約者数・訪問回数・技術料の合計の3つで十分です。大事なのは毎月同じ形式で記録し続けること。数字が伸びないとき、営業(契約が増えない)と算定(訪問の割に技術料が積み上がらない)のどちらに課題があるのかを切り分けられるようになります。指標の設計は「在宅薬局のKPI設計」で詳しく解説しています。
1年目にやりがちな3つの失敗
| 失敗 | 何が起きるか | 先回りの打ち手 |
|---|---|---|
| 点在する依頼を全部受ける | 移動だらけで1日が終わり、件数の割に消耗する | 受けるエリアを決め、範囲外は断る基準を文書化する |
| 算定漏れの放置 | 訪問コストだけかかり、利益が静かに削られる | 算定要件の確認をルーチン化し、定期的に点検する |
| 記録を残業で処理する | 件数が増えた瞬間に破綻し、質も落ちる | テンプレート化と訪問の合間の記録完結を最初から徹底する |
共通するのは、どれも「頑張り」ではなく運用の設計で防げるということです。1年目の目標は件数の最大化ではなく、2年目以降も回り続ける型を作ることに置いてください。
よくある質問(FAQ)
在宅の立ち上げから黒字化までどのくらいかかりますか?
案件・地域により幅がありますが、編集部の感覚では半年〜1年程度を見込むのが現実的です。施設契約が決まる時期に大きく左右されるため、営業の進み方しだいで前後します。
最初の契約はどこから取るのが現実的ですか?
通院が難しくなってきた既存の外来患者、退院直後などの単発・臨時対応、ケアマネジャーからの小さな依頼が現実的な入口です。実績ゼロの時期に大型の施設契約から狙うのは遠回りになりがちです。
立ち上げ期に最優先で整えるべきものは何ですか?
訪問時間帯の固定、記録・報告書のテンプレート、算定の点検体制の3つです。いずれも件数が増えてからでは直しにくく、1件目の前に仕込んでおくほど効きます。
在宅の収益構造そのものを先に知りたいのですが。
技術料の積み上げで儲かる仕組みや利益率、成功する薬局の特徴は「在宅薬局は儲かるのか?収益構造・利益率・成功する薬局5つの特徴」で体系的に解説しています。本記事とあわせてお読みください。
最終更新日:2026年7月2日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

