在宅を始めた薬局がほぼ必ず直面するのが在庫の膨張です。訪問先ごとに採用薬が異なるため品目数が増え、患者の急変・入院で不動在庫が構造的に発生しやすいのが在宅薬局です。結論、在庫は金額ではなく在庫月数で管理し、発生源ごとに打ち手を決めて週次・月次のルーチンで回すことが対策の本筋です。
在庫指標の基本:在庫月数で見る
在庫月数=在庫金額÷1か月あたりの使用(出庫)金額。「今の在庫で何か月分あるか」を表す指標です。たとえば在庫金額が月間使用金額の2.5倍なら在庫月数は2.5か月、という計算になります。適正水準は業態・在宅比率により幅がありますが、まず自局の現状値を出し、月数が伸び続けていないかをトレンドで見るのが実務的です。
- 在庫金額の絶対額だけでは、多いか少ないか判断できない
- 薬局全体の月数と「品目別の月数」の両方を見る(不動品目は品目別で炙り出す)
- 薬価改定前は意識的に月数を絞る(改定をまたぐ在庫は評価損になる)
不動在庫の発生源:在宅特有の3パターン
不動在庫は「なんとなく」増えるのではなく、はっきりした発生源があります。代表的なのは次の3つです。
- 患者側の急変:入院・逝去・施設への移動で、その患者向けの備蓄が翌月から丸ごと不要になる
- 処方変更・採用中止:医師の処方変更や施設の採用薬変更で備蓄が浮く
- 「念のため」の備蓄:臨時対応に備えた先回り発注が、使われないまま残る
外来なら処方が止まっても他の患者で消化できることが多いのに対し、在宅の備蓄は特定の患者にひもづいているため、その患者がいなくなった瞬間に行き場を失います。これが在宅薬局で不動在庫が増えやすい構造的な理由です。患者宅側で発生する飲み残しの問題は「残薬管理」で扱っています。薬局在庫と患者残薬は、どちらも「使われない薬」という同じ損失です。
不動在庫を減らす4つの打ち手
発生をゼロにはできない前提で、「入口(発注)を絞る」「出口(転用・処分)を増やす」の両面から打ち手を組みます。
| 打ち手 | 内容 |
|---|---|
| 発注ルールの明文化 | 「最小包装で発注」「定期処方の確定後に発注」など、判断を個人の勘に依存させない |
| 銘柄集約 | 同一成分の後発品の銘柄を絞り、品目数そのものを減らす |
| 返品・小分け譲渡 | 卸への返品条件を事前に確認し、近隣薬局との小分け譲渡を日常の選択肢にする |
| 改定前の圧縮 | 年度替わりの薬価改定前に不動リストを一斉処分し、発注を絞る時期を決めておく |
週次・月次の点検ルーチン
打ち手を決めても、点検のタイミングが決まっていなければ実行されません。次の頻度でルーチン化するのがおすすめです。
| 頻度 | 点検内容 |
|---|---|
| 週次 | 入院・逝去など患者変動を在庫担当へ共有し、浮いた在庫をその週のうちに転用・返品判断する |
| 月次 | 在庫月数の算出、不動在庫リスト(例:90日以上出庫なし)の更新、期限チェックと譲渡・返品の実行 |
| 改定前 | 不動リストの処分と発注絞り込みの開始時期を決め、実行する |
ポイントは「気づいたときにやる」ではなく、頻度を決めてカレンダーに固定することです。一度の大掃除で終わらせず、発注を絞る・点検する・処分するのサイクルとして回し続けることで、在庫月数は少しずつ確実に下がっていきます。
そのまま使える:週次・月次点検の手順書
前章のルーチンを、担当者が迷わず実行できる手順に落とし込みます。誰がやっても同じ結果になるよう、薬局内の掲示・マニュアルにそのまま転記して使ってください。
週次点検の手順
- 患者変動の共有:入院・逝去・処方変更・施設移動の情報を、訪問担当から在庫担当へ申し送る(朝礼・チャットなど経路を固定)
- 浮いた備蓄のリスト化:その患者にひもづいていた在庫を品目・数量・期限つきで洗い出す
- 転用可否の判断:ほかの在宅患者・外来で消化できるかをまず確認する
- 返品・譲渡の起票:転用できない品目は卸の返品条件を確認し、近隣薬局への小分け譲渡も打診する
- 発注への反映:翌週の定期発注から該当品目の数量を落とす(ここを忘れると在庫がまた積み上がる)
月次点検の手順
- 在庫月数の算出:在庫金額÷月間使用金額。前月との差分をトレンドで記録する
- 品目別月数の上位を確認:月数が突出している品目を特定し、原因(患者変動か発注過多か)を分類する
- 不動在庫リストの更新:「90日以上出庫なし」などの自局基準でリストを更新する
- 期限チェック:期限が近い順に転用・譲渡の優先順位をつける
- 処分の実行:返品・譲渡・廃棄をこの日に必ず実行する(「リスト化して終わり」を防ぐ)
- 発注ルールの見直し:同じ品目が繰り返し不動化していれば、発注ルール側を修正する
在宅特有の不動在庫を防ぐ運用ルール
在宅の備蓄は特定の患者にひもづくため、「患者の変動を在庫のアクションに直結させる仕組み」があるかどうかで結果が大きく変わります。
- 備蓄を患者にひもづけて台帳管理する:「誰のための在庫か」を記録しておけば、患者変動時に浮く在庫が即座に特定できる
- 入院・逝去の連絡経路を決めておく:ケアマネ・施設・訪問看護からの一報が在庫担当まで届く流れを明文化する
- 「念のため備蓄」は最小包装で:臨時対応の先回り発注は、最小包装・使用期限の長い規格を選ぶ
- 施設の採用薬変更を先取りする:施設側の採用見直し時期を把握し、変更が決まった時点で発注を止める
在庫の軽さは収益構造の強さ
薬価差益が縮小していく中で、在庫の重さはそのまま経営リスクになります。在庫を軽くして評価損・廃棄損を防ぎ、技術料を取り切る——この2つが収益改善の両輪です(薬局の収益構造を図解)。技術料側の取りこぼしは「在宅算定 まるごと判定(無料)」で確認できます。
よくある質問(FAQ)
在庫月数はどのくらいが適正ですか?
業態や在宅比率で幅があり、一律の正解はありません。まず自局の現状値(在庫金額÷月間使用金額)を算出し、月数のトレンドが悪化していないかを毎月確認するのが出発点です。
不動在庫の基準はどう決めればよいですか?
「90日以上出庫がない品目」などの社内基準を置く例が多いです(編集部の目安)。基準を決めてリスト化し、月次で譲渡・返品・処分を判断する運用にしてください。
返品できない不動在庫はどうすればよいですか?
近隣薬局への小分け譲渡や分割販売の仕組みの活用が現実的です。廃棄は最後の手段とし、発生源である発注ルールの見直しとセットで行ってください。
入院や逝去で使わなくなった在宅患者の備蓄はどうすればよいですか?
その週のうちに転用・返品・譲渡を判断するのが原則です。患者にひもづく備蓄は放置するとそのまま不動在庫になるため、患者変動の情報が在庫担当へ即日届く連絡経路をあらかじめ決めておいてください。
最終更新日:2026年7月2日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

