老人ホームの入居時費用が東京で1001万円に|在宅薬局が読むべき3つの変化

老人ホームの入居時費用 東京で1001万円に|在宅ファーマ

2026年8月18日の日本経済新聞が、有料老人ホームの費用高騰を報じました。東京都内の有料老人ホームの入居時費用(中央値)は、2026年1月時点で1001万円。2018年1月時点から39%上昇しています。月額費用も同じ期間で15%増え、中央値は29万7820円になりました。

これは「施設選びが大変になった」という一般向けのニュースとして読めますが、在宅医療を担う薬局にとっては、担当する患者がどこにいるかが動くという話でもあります。この記事では、報道された数字を整理したうえで、在宅薬局の実務に効いてくる変化を3つに絞って書きます。

この記事の要点
  • 東京都内の入居時費用は中央値1001万円(2026年1月時点・8年で4割増)、月額は29万7820円(同15%増)
  • 都内在住者の施設問い合わせは4割が都外。埼玉の入居時費用は中央値330万円で東京の3分の1
  • 費用で施設に入れない層は自宅に残る=個人宅の在宅需要が増える方向に働く
  • 施設在宅を主力にする薬局は、入居者の入れ替わりと施設の立地の変化を早めに把握しておきたい
  • 30〜40代の8割が親と介護費用を話していない=薬剤師が費用の話を切り出せる位置にいる
目次

報道された数字を整理する

日経新聞が高齢者施設検索サイト「LIFULL介護」を運営するライフルシニアと共同で、都内約1200施設・約4900件のプランを分析した結果です。入居時費用とは、家賃の前払いや施設の利用権・居住権などを購入するための費用を指します。

項目2026年1月時点2018年1月比
入居時費用(都内・中央値)1001万円39%上昇
月額費用(都内・中央値)29万7820円15%増
5年間暮らした場合の総額2787万9200円8年で510万円増
都道府県別で最も高い京都府 1391万円41%増
埼玉県の入居時費用330万円東京の約3分の1

上昇の理由として記事が挙げているのは、地価・建築費の高騰による家賃相場の上昇と、食料費・水道光熱費など物価高です。全国で約470ホームを展開するSOMPOケアは2019年以降に計5回の値上げを実施し、値上げ幅は15%に達しています。同社は「物価の上昇が続けば、今後も月額費用の値上げを考えざるをえない」と述べています。

なお、都内の入居時費用(中央値)は足元の8月時点では924万円に下がっており、LIFULL介護の編集長は「一時的な変動はあるが、費用の上昇基調は今後も続くとみられる」としています。単月の数字ではなく、8年という単位での上昇トレンドとして読むのが妥当です。

変化1:施設に入れない人が自宅に残る

自宅で一人で薬を管理する高齢の患者
費用面で施設を選べなかった人は、そのまま自宅で療養を続けることになる。

入居時費用が1000万円を超え、月額も30万円に近づくと、年金と貯蓄で支えきれない層が確実に出てきます。有料老人ホームは全国で1万7246施設(2024年)と2000年比で49倍に増えましたが、増えた施設が誰にでも手が届く価格帯とは限りません。

費用面で施設を選べなかった高齢者は、そのまま自宅で療養を続けることになります。在宅薬局の側から見ると、これは個人宅への訪問、つまり単一建物居住者が1人のケースが増える方向に働きます。施設をまとめて回るより移動の負担は大きいものの、1人あたりの評価は個人宅のほうが手厚く設定されています。

同時に、支える家族の負担も重くなります。単身高齢者が増え、家族介護の担い手は減るという構図のなかで、服薬管理を誰が担うのかという問題は、これまで以上に薬局に回ってきます。訪問の際に「この人は自分で管理できるのか、家族が来られるのか」を確認する重要性が上がります。

個人宅と施設で算定の考え方がどう違うかは、施設種別×居宅療養管理指導の算定可否 早見表に整理しています。

変化2:患者が「都外」へ移る=商圏が動く

郊外の住宅地を訪問する薬剤師
都内在住者の4割が都外の施設を検討。担当エリアの外へ患者が動いていく。

記事のなかで、薬局にとって最も直接的に効くのがこの数字です。ライフルシニアによると、今年上半期に都内在住者が問い合わせた施設のエリアは、都内が6割にとどまり、4割が神奈川・千葉・埼玉などの「都外」でした。埼玉の入居時費用は中央値330万円で、東京の3分の1です。

これが意味するのは、次の2つです。

  • 都内の薬局:担当していた患者が、都外の施設へ移って契約が終わる場面が増える。訪問件数の読みが立ちにくくなる
  • 近隣県の薬局:都内から移ってきた入居者を抱える施設が増える。施設在宅の新規開拓余地が生まれる

施設在宅を主力にしている薬局ほど、1施設あたりの入居者数と入れ替わりの速さが、そのまま売上の変動になります。提携先の施設で退去が続いているなら、その理由が費用なのか、要介護度の変化なのかを相談員に確認しておくと、次の手を打つ時間が稼げます。施設との関係づくりはサ高住・有料老人ホームとの提携で詳しく書いています。

変化3:費用に敏感な家族が増える

月額30万円近い支出を続ける家庭では、医療費・薬剤費に対する目も当然きびしくなります。訪問のたびに「この薬は本当に必要か」「回数を減らせないか」と聞かれる場面は増えていくはずです。

ここで薬剤師が返せる答えは、実は3つしかありません。

  1. 飲めていない薬を減らす:残薬を整理し、必要なら医師に減薬・剤形変更を提案する
  2. 同じ効果で安い選択肢を示す:後発品や規格の見直しなど、負担が下がる選択肢を具体的に出す
  3. 訪問そのものの価値を説明する:何をしていて、何を防いでいるのかを、家族が理解できる言葉で伝える

3つ目を飛ばすと、訪問は「毎月かかる費用」としてだけ見られます。残薬整理の具体的な進め方は在宅患者の残薬整理術にまとめています。

もう一つ、報道で見逃せないのがLIFULL介護の別の調査で、30〜40代男女の8割が「親と介護費用について話し合ったことがない」と答えている点です。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは、施設選びの注意点として「月額費用の上昇を織り込んだうえで、資金で賄える範囲の施設を選ぶ必要がある」と指摘しています。

裏を返せば、お金の話を誰も切り出していない家庭が大半だということです。月に1〜2回自宅に上がり、家族とも顔を合わせる薬剤師は、その話題に自然に触れられる数少ない専門職です。「いま出ている薬でこのくらいの負担です」と伝えるだけでも、家族が資金計画を考えるきっかけになります。

今日からできる5つのこと

  1. 提携施設の入居率と退去理由を相談員に聞く(費用による退去が出ていないか)
  2. 担当患者のうち個人宅の割合を出す。施設依存が高いほど、入れ替わりの影響を受けやすい
  3. 近隣県の施設の新設情報を、ケアマネジャー経由で拾う(都外へ動く需要の受け皿になる)
  4. 訪問時に薬剤費の目安を伝える運用を決める。金額を出せるようにしておく
  5. 残薬が出ている患者を洗い出し、減薬提案の候補を作る

在宅を収益の柱にする考え方は在宅薬局は本当に儲かるのか、ケアマネジャーとの連携はケアマネ連携の実務で解説しています。

よくある質問(FAQ)

入居時費用と月額費用は何が違いますか?

入居時費用は、家賃の前払いや施設の利用権・居住権などを購入するために最初に支払う費用です。月額費用は管理費や食費、水道光熱費などで、毎月継続してかかります。報道された都内の中央値は、入居時費用1001万円・月額29万7820円(いずれも2026年1月時点)です。

施設費用の高騰は在宅薬局にとって追い風ですか?

単純な追い風とは言えません。費用面で施設に入れない層が自宅に残るため個人宅の需要は増える方向ですが、同時に施設在宅を主力にしている薬局は入居者の入れ替わりや都外への流出の影響を受けます。自局の患者構成がどちらに寄っているかで意味が変わります。

都内の入居時費用は下がったという話も見ましたが?

2026年8月時点の中央値は924万円で、1月時点の1001万円から下がっています。ただしLIFULL介護の編集長は一時的な変動としており、上昇基調は続くとみています。単月ではなく、8年間で4割増という長期の傾向で捉えるのが適切です。

患者や家族から費用を相談されたら、どこまで踏み込むべきですか?

薬剤師が答えられるのは薬剤費と訪問にかかる費用の範囲です。施設費用や資産計画そのものはケアマネジャーや相談員、専門家の領域なので、聞き取った内容を関係者へつなぐのが現実的です。つなぐ前提で話題に触れておくこと自体に価値があります。

監修・編集:在宅ファーマ編集部(薬剤師・実務7年目)
最終更新日:2026年8月18日
本記事の費用データは上記報道に基づく引用です。施設ごとの実際の費用や、介護保険の自己負担額は個別に確認してください。

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