在宅の利益を静かに削っているのが「車両費」と「移動コスト」です。1件ごとに見ると小さくても、毎日・全担当・1年分を積み上げると無視できない金額になります。しかもこれらは、ルート設計や運用の工夫で確実に減らせる「コントロールできるコスト」です。本記事では、在宅の車両費・移動コストを見える化し、ルート設計で利益を残すための実践手順を解説します。
車両費・移動コストは「見える化」から始める
多くの薬局で、車両費は「なんとなくかかっているもの」として管理が甘くなりがちです。まずは何にいくらかかっているかを分解します。1件あたりのコスト全体像は在宅訪問1件あたりのコストで扱っていますが、ここでは移動に絞って深掘りします。
| 費目 | 性質 | 見える化の方法 |
|---|---|---|
| 燃料費 | 走行距離に比例 | 月間走行距離×燃費で算出。ルート改善で直接効く |
| 駐車場・パーキング | 訪問エリアに依存 | 1件ごとのパーキング代を記録し集計 |
| 保険・自動車税 | 固定費 | 年額を12で割り、訪問件数で按分 |
| 車検・整備 | 準固定費 | 年額を月割りして原価に組み込む |
| 減価償却/リース料 | 固定費 | 車両1台の年間コストを稼働で按分 |
| 移動時間の人件費 | 走行時間に比例 | 移動時間×薬剤師の時給換算で把握 |
見落とされがちなのが「移動時間の人件費」です。走っている時間は報酬を生みませんが、薬剤師の給与は発生しています。燃料費より、この時間コストのほうが大きいことも珍しくありません。車両費を「ガソリン代」だけで捉えていると、本当の移動コストの半分も見えていないことになります。
固定費と変動費を分けて考える
車両費は「固定費」と「変動費」に分けると打ち手が見えます。
- 固定費(保険・税・減価償却など):訪問件数を増やして1件あたりを薄めるのが基本
- 変動費(燃料・パーキング・移動時間):ルート設計と運用で総量を減らすのが基本
固定費は「たくさん回るほど得」、変動費は「賢く回るほど得」という性質の違いがあります。両方を同時に効かせるのが理想です。たとえば車両を遊ばせているなら訪問を増やして固定費を薄め、同時にルートを工夫して1件あたりの変動費を下げる、という二段構えで考えます。
ルート設計で移動コストを削る5つの工夫
移動コストの削減は、ルート設計と訪問の組み方でほとんど決まります。効果の大きい順に取り組みます。
- エリア・曜日でブロック化する:訪問日をエリアごとに固め、往復のムダを消す
- 近い患者をまとめて回る:1回の外出で回る密度を上げる
- 時間指定を最小限にする:柔軟に順番を組める患者を増やすと最適化の余地が広がる
- ルート最適化アプリを使う:回る順番を自動計算し走行距離を短縮
- 移動中の連絡を仕組み化する:戻ってから電話し直すムダをなくす
ルート最適化アプリの選び方は訪問ルート最適化アプリの選び方、時間の使い方全体は在宅訪問の時間管理術で詳しく解説しています。ツールと運用は「セット」で効果を発揮します。もっとも効果が大きいのはブロック化で、これは費用ゼロで今日から始められます。
数値で管理する|追うべき3指標
感覚ではなく数字で管理すると、改善が続きます。次の3つを月次で追うのがおすすめです。
| 指標 | 意味 | 改善の方向 |
|---|---|---|
| 1件あたり走行距離 | 移動効率の指標 | ルート改善で下げる |
| 1件あたり移動時間 | 時間効率の指標 | ブロック化・順番最適化で下げる |
| 移動コスト÷在宅売上 | 売上に対する移動負担 | 件数増と効率化で比率を下げる |
この3指標を担当・エリア別に見ると、「割に合わないエリア」や「改善余地の大きい担当」が浮かび上がります。数字が見えると、「このエリアはもう少し密度が上がるまで待つ」「この担当のルートを組み直す」といった判断ができます。KPIの設計は在宅薬局のKPI設計も参考になります。
車両の持ち方|自社所有・リース・私用車
コスト管理の観点では、車両の持ち方も選択肢です。それぞれに一長一短があり、訪問規模で最適解が変わります。
| 持ち方 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 自社所有 | 長く乗れば1台あたりコストを抑えられる | 初期費用と整備・管理の手間 |
| リース・カーシェア | 初期費用を抑え管理が楽 | 走行が多いと割高になることも |
| 従業員の私用車+手当 | 車両を持たずに始められる | 手当・保険の扱いを明確にする必要がある |
私用車を使う場合の手当や保険の扱いは、トラブルを避けるため事前にルール化しておきます。業務中の事故の補償範囲は特に重要で、あいまいなまま運用すると後で大きな問題になります。経費全体の見直しは薬局の収益改善10戦略にまとめています。
削減した利益を「見える化」して続ける
コスト削減は、成果が見えないと続きません。ルートを工夫して走行距離が減ったら、その分の燃料費・時間がいくら浮いたかを金額で示すと、現場のモチベーションになります。
- 前後比較を残す:改善前と後の走行距離・移動時間・残業を並べて記録する
- 浮いた時間の使い道を決める:削れた時間を訪問件数の増加や記録・連携に振り向ける
- 担当と共有する:数字を現場に返し、改善を「自分ごと」にしてもらう
車両費・移動コストは「減らせるコスト」です。見える化→ルート設計→数値管理→成果の共有、という流れで取り組めば、同じ訪問件数でも手元に残る利益を確実に増やせます。小さな工夫の積み重ねが、1年後には大きな差になって返ってきます。
季節・エリアで変わる移動コスト
移動コストは一年を通じて一定ではありません。季節やエリアの特性で変動します。これを見込んでおくと、予算のブレに慌てずに済みます。
| 要因 | 移動コストへの影響 |
|---|---|
| 冬季・積雪地域 | 走行が遅くなり移動時間が増える。燃費も悪化しやすい |
| 都市部 | 走行距離は短いがパーキング代がかさむ |
| 郊外・中山間 | 走行距離が伸び燃料費・時間が増える |
| 繁忙期 | 訪問が集中し、非効率なルートになりやすい |
自局のエリアがどの特性を持つかを把握し、コストの重い時期・場所に的を絞って対策すると効率的です。
小さな工夫の積み上げ例
大きな投資をしなくても、日々の小さな工夫で移動コストは着実に下がります。現場で効果の出やすい例を挙げます。
- 訪問日をエリアで固定する:「月曜は北エリア」と決めるだけで往復が減る
- 初回訪問を午前にまとめる:時間のかかる初回を効率的な時間帯に置く
- 連絡は移動前後にまとめる:戻ってからの電話し直しを減らす
- 給油・洗車のタイミングを決める:ついで化してムダな移動をなくす
こうした工夫は費用ゼロで始められ、続けるほど効いてきます。訪問キャパの設計とあわせて考えると効果が高く、在宅の訪問件数は1日何件が限界?も参考になります。
移動コスト削減の落とし穴
効率だけを追うと、かえって質を落とすことがあります。コスト削減は「訪問の価値を保ったまま」が大前提です。次の点に注意します。
- 詰め込みすぎない:件数を増やしすぎると1件が雑になり、信頼を損なう
- 時間指定を無理に断らない:患者の事情を無視すると関係が悪化する
- 安全運転を最優先する:急ぎすぎは事故のもと。時間短縮より安全
移動コストの削減は、あくまで「浮いた時間と費用を、患者への価値に振り向ける」ための手段です。効率化と訪問の質は両立できます。訪問1件のコスト全体は在宅訪問1件あたりのコストもあわせてご覧ください。
まとめ|見える化から始め、成果を共有して続ける
車両費と移動コストは、在宅の利益を静かに削る一方で、工夫で確実に減らせる「コントロールできるコスト」です。まずガソリン代だけでなく移動時間の人件費まで含めて見える化し、固定費と変動費に分けて打ち手を考える。エリア・曜日のブロック化という費用ゼロの工夫から始め、ルート最適化アプリで順番を最適化し、1件あたり走行距離などの指標を月次で追う。そして削減できた成果を金額で示し、現場と共有して「自分ごと」にしてもらう。この流れを回せば、同じ訪問件数でも手元に残る利益は着実に増えます。効率化と訪問の質は両立できます。小さな工夫の積み重ねが、1年後には大きな差になって返ってきます。
よくある質問(FAQ)
在宅の車両費で見落としやすいものは?
「移動時間の人件費」です。走行している時間は報酬を生みませんが薬剤師の給与は発生しており、燃料費よりこの時間コストのほうが大きいこともあります。ほかに駐車場・パーキング代、車検整備、減価償却も見落とされがちです。
車両費はどう管理すればいいですか?
固定費(保険・税・減価償却)と変動費(燃料・パーキング・移動時間)に分けます。固定費は訪問件数を増やして1件あたりを薄め、変動費はルート設計で総量を減らすのが基本です。1件あたり走行距離・移動時間などを月次で追うと改善が続きます。
移動コストを減らす一番効く方法は?
エリア・曜日で訪問日を固める「ブロック化」と、近い患者をまとめて回ることです。そのうえでルート最適化アプリで順番を自動計算すると走行距離を短縮できます。ブロック化は費用ゼロで今日から始められます。
車は自社所有とリース、どちらがよいですか?
訪問規模によります。長く多く走るなら自社所有が1台あたり有利になりやすく、始めたばかりや台数を柔軟にしたいならリース・カーシェアが向きます。従業員の私用車+手当で始める方法もありますが、手当と保険の扱いを事前にルール化しておきます。
最終更新日:2026年7月9日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

