薬局の事業承継ガイド|後継者がいない場合の選択肢

薬局の事業承継イメージ

「あと5年で引退したいけど、後を継ぐ人がいない」——地方の薬局オーナーからよく聞く切実な悩みです。

日本の薬局オーナーの平均年齢は年々上昇しており、事業承継は業界全体の喫緊の課題です。しかし、承継の選択肢は「身内に継がせる」だけではありません。社員への承継、M&Aによる第三者への売却、そして閉局。それぞれにメリット・デメリットがあり、早期に検討を始めることが最善の結果につながります。


目次

薬局の事業承継の現状

薬局業界における事業承継の問題は深刻化しています。全国約62,000店の薬局のうち、個人経営や小規模法人が約半数を占めますが、その多くでオーナーの高齢化が進んでいます。

後継者がいない場合、最終的には閉局するしかありませんが、それは地域の患者さんにとって大きな損失です。「行きつけの薬局がなくなった」という事態は、特に在宅患者さんにとって深刻な問題を引き起こします。

だからこそ、事業承継は「自分のため」だけでなく「地域のため」に考えるべきテーマです。


4つの承継パターン

事業承継には大きく4つのパターンがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

パターン1:親族への承継

最もオーソドックスな選択肢です。息子・娘が薬剤師であれば理想的ですが、現実には「子どもが薬学部に進まなかった」「子どもが大手チェーンに就職してしまった」というケースが大半です。

親族承継の最大のメリットは、信頼関係がベースにあることと、相続税の特例措置が使えることです。中小企業の事業承継税制を活用すれば、株式にかかる相続税・贈与税を猶予または免除できます。

ただし、「身内だから安心」と準備を怠ると失敗します。経営の引き継ぎは最低3年、できれば5年かけてじっくり行うのが理想です。

パターン2:社員への承継(MBO)

薬局の管理薬剤師やベテラン社員に承継するパターンです。業務をよく知っている人に任せられるため、患者さんやスタッフへの影響が最も少ないのが特徴です。

課題は「資金」です。社員が薬局を買い取るためのお金をどう用意するか。金融機関からの融資が必要になりますが、事業実績がしっかりしていれば審査は通りやすい傾向にあります。

もう一つの課題は、「経営者マインドへの転換」です。優秀な薬剤師が必ずしも優秀な経営者になれるわけではありません。承継前から少しずつ経営に関わってもらい、決算書を一緒に見たり、仕入れ交渉に同席させたりする育成期間が必要です。

パターン3:M&A(第三者への売却)

近年急増しているのが、調剤チェーンやドラッグストアへの売却です。後継者がいない場合の選択肢として、最も現実的なケースが増えています。

M&Aのメリットは、オーナーが対価として金銭を受け取れることです。薬局の売却価格は、一般的には「年間営業利益の3〜5倍+在庫評価額」が目安とされています。

年間営業利益売却価格の目安在庫含む
500万円1,500〜2,500万円+在庫
1,000万円3,000〜5,000万円+在庫
2,000万円6,000万〜1億円+在庫

ただし、売却価格は立地、処方箋枚数、在宅患者数、スタッフの定着率、門前医療機関の状況など、多くの要素で変動します。

M&Aの仲介会社を利用する場合、仲介手数料として売却額の3〜10%が発生します。薬局専門のM&Aアドバイザリー会社もあり、業界事情を理解した上でマッチングしてくれます。

パターン4:閉局

すべての選択肢を検討した結果、閉局を選ぶこともあります。残念な結果ではありますが、無理に営業を続けて赤字を膨らませるよりは、計画的な閉局の方がダメージは小さいです。

閉局の場合、最も大切なのは患者さんの引き継ぎ先を確保することです。特に在宅患者さんについては、他の薬局に引き継ぎの相談を行い、スムーズに移行できるよう3〜6ヶ月前から準備を始めましょう。


承継の準備で最も大切なこと

事業承継で最も大切なのは、「早く始めること」に尽きます。理想的には引退の5年前に検討を始め、3年前には具体的な行動に移すべきです。

なぜ早い方がいいのか。それは、オーナーが元気なうちに引き継ぎを行うことで、スタッフや患者さんへの影響を最小限にできるからです。体調を崩してから慌てて売却先を探すと、交渉力が弱くなり、売却価格も下がる傾向があります。

まずは以下のことから始めてみてください。

1. 決算書を整理する — 直近3年分の決算書を見返し、事業の価値を把握する

2. 身近な人に相談する — 税理士、薬剤師会、信頼できる同業者に相談する

3. 選択肢を調べる — M&Aアドバイザリー会社の無料相談を利用する

4. 患者さんのことを考える — 在宅患者リストを整理し、誰をどこに引き継ぐか考え始める


まとめ

事業承継は、薬局経営者が避けて通れないテーマです。後継者がいなくても、M&Aという選択肢があります。大切なのは、早期に準備を始め、地域の患者さんに迷惑をかけない形で次の世代にバトンを渡すことです。

「まだ早い」と思っているうちに、選択肢は少なくなっていきます。今日から、少しずつ考え始めてみてください。


この記事は薬局M&Aの公開情報および税務・法務の一般的な知識に基づいて作成しています。具体的な手続きは専門家にご相談ください。


参考リンク


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出典・参考(一次情報)

本記事の点数・単位数・算定要件は、公開時点の厚生労働省の告示・通知・疑義解釈資料等にもとづいています。実際の算定にあたっては、必ず最新の一次資料をご確認ください。

監修・編集:在宅ファーマ編集部(薬剤師・実務7年目)
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

よくある質問

Q. 薬局の後継者がいない場合、どんな選択肢がありますか?

A. 本記事では4つのパターンが紹介されています。親族への承継、管理薬剤師やベテラン社員への承継(MBO)、調剤チェーンやドラッグストアなど第三者へ売却するM&A、そして計画的な閉局です。後継者がいない場合はM&Aが最も現実的な選択肢として近年増えているとされています。

Q. 薬局はどのくらいの価格で売却できますか?

A. 一般的には「年間営業利益の3〜5倍+在庫評価額」が目安とされています。例えば年間営業利益500万円なら1,500〜2,500万円+在庫が目安です。ただし立地、処方箋枚数、在宅患者数、スタッフの定着率、門前医療機関の状況など多くの要素で変動し、仲介会社を利用する場合は売却額の3〜10%の仲介手数料が発生します。

Q. 薬局の事業承継はいつから準備を始めるべきですか?

A. 最も大切なのは早く始めることで、理想的には引退の5年前に検討を始め、3年前には具体的な行動に移すべきとされています。オーナーが元気なうちに引き継ぐことでスタッフや患者への影響を最小限にでき、体調を崩してから慌てて売却先を探すと交渉力が弱くなり売却価格も下がる傾向があるためです。

Q. 薬局を閉局する場合、何に気をつければいいですか?

A. 最も大切なのは患者さんの引き継ぎ先を確保することです。特に在宅患者さんについては、他の薬局に引き継ぎの相談を行い、スムーズに移行できるよう3〜6ヶ月前から準備を始めることがすすめられています。無理に営業を続けて赤字を膨らませるより、計画的な閉局の方がダメージは小さいとされています。

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この記事を書いた人

薬剤師マルのアバター 薬剤師マル 在宅ファーマ編集長

薬剤師(実務7年目)。公認スポーツファーマシスト/サプリメントアドバイザー。調剤薬局・在宅医療の現場経験をもとに、在宅薬剤師と薬局経営者へ向けて、算定・実務・経営のリアルな情報を発信しています。記事は厚生労働省の告示・通知や公的データ・業界資料を確認のうえ作成し、最新の改定情報の反映に努めています。

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