ひとくちに「在宅」といっても、施設在宅(有料老人ホーム・サ高住など)と個人在宅(戸建て・マンションの個人宅)では、業務も収益構造も働き方もまったく違います。「在宅を始めたい」「在宅の求人に応募したい」と考えるとき、この違いを知らないまま選ぶとミスマッチの原因になります。本記事では両者の違いを比較表と1日の流れで整理し、向き不向きのセルフチェック、どちらから始めるべきかの判断軸まで示します。
業務の違い早見表
| 比較軸 | 施設在宅 | 個人在宅 |
|---|---|---|
| 訪問効率 | 1か所で多人数。移動が少なく効率的 | 1軒1人。移動時間が業務の大きな割合を占める |
| 関係者 | 施設看護師・介護士が窓口。情報が集約されている | 家族・ケアマネ・ヘルパーなど関係者が分散 |
| 薬学的難易度 | 定型化しやすい(配薬・入居者の定期処方が中心) | 個別性が高い(生活環境・残薬・嚥下など課題が多様) |
| 求められる力 | 正確性・段取り・施設との調整力 | 観察力・コミュニケーション・処方提案力 |
| 収益性 | 件数が積み上がりやすいが単価区分は下がりやすい | 単価区分は高いが件数を増やしにくい |
| スケジュール | 定期訪問中心で予定が立てやすい | 患者都合・体調で変動しやすく、調整力が要る |
| 緊急対応 | 施設スタッフが一次対応するため呼び出しは少なめ | 家族・本人からの臨時連絡が直接入りやすい |
| 記録・報告書 | 人数が多く総量は多いが、様式を定型化しやすい | 1人あたりの記載が濃く、個別性が高い |
| 依頼の入り口 | 施設・本部との契約営業が中心 | ケアマネ・診療所・家族からの紹介が中心 |
ざっくり言えば、施設在宅は「オペレーションのビジネス」、個人在宅は「臨床とコミュニケーションのビジネス」です。この性質の違いが、後述する収益構造・働き方・向き不向きのすべてに波及します。
働き方の違い:1日の流れで比較
同じ「在宅の日」でも、施設中心と個人宅中心では時間の使い方がまったく違います。典型的な1日を並べてみます。
| 時間帯 | 施設在宅中心の日 | 個人在宅中心の日 |
|---|---|---|
| 午前(前半) | 店舗で施設分の調剤・配薬セットの最終確認 | 店舗で当日訪問分の準備・前回記録の確認 |
| 午前(後半) | 施設1〜2か所を訪問。多人数の配薬と施設スタッフとの情報交換 | 個人宅を数件訪問。1件ごとに移動を挟む |
| 昼 | 移動は少なく、店舗に戻って昼休憩を取りやすい | 移動の合間に休憩。訪問間の電話対応が入ることも |
| 午後 | 施設の残り分を訪問、または店舗業務 | 個人宅の訪問を継続。残薬整理や家族への説明で1件が長引きやすい |
| 夕方 | 記録・報告書をまとめて作成(様式が揃うので流れ作業にしやすい) | 患者ごとに個別性の高い記録・ケアマネへの報告を作成 |
施設在宅は「まとまった業務を正確に流す」働き方、個人在宅は「移動と個別対応を積み重ねる」働き方です。同じ在宅でも疲れ方の質が違うため、自分がどちらの負荷に強いかは適性を考えるうえで重要です。
算定の違い:単一建物居住者数がカギ
施設在宅と個人在宅の収益差は、単一建物居住者数の区分(1人=518単位/2〜9人=379単位/10人以上=342単位)で生まれます。施設は件数で稼ぎ、個人宅は単価で稼ぐ構造です。経営としてはどちらが優れているという話ではなく、訪問効率(移動コスト)と単価のトレードオフをどう組み合わせるかの設計問題です。区分ごとの数え方の詳細と間違えやすいケースは「単一建物居住者数の数え方」、施設種別ごとの算定可否は「施設種別×算定可否の早見表」をご覧ください。
働き方・キャリアの違い
施設在宅が向いている人・薬局
- 段取りと正確性に強みがある(大量の配薬を仕組みで回せる)
- 在宅を始めたばかりで、まず件数と経験を積みたい薬局
- 限られた薬剤師数で在宅の売上基盤をつくりたい薬局
- 店舗業務と在宅を同じメンバーで兼務させたい薬局(訪問時間が読めるため両立しやすい)
個人在宅が向いている人・薬局
- 患者・家族とじっくり関わる臨床が好きな薬剤師
- 処方提案・多職種連携などの薬学的介入で価値を出したい薬剤師
- かかりつけ機能を強化し、地域での紹介の輪を広げたい薬局
- ターミナルケアや無菌調剤など、専門性を軸に差別化したい薬局
向き不向きセルフチェック
薬剤師個人の適性として、次の項目で多く当てはまる方を軸にすると納得感のある選択になります。
| 施設在宅向きのサイン | 個人在宅向きのサイン |
|---|---|
| 決まった手順を正確に・速く回すのが得意 | 相手に合わせて対応を変えるのが苦にならない |
| 大量のタスクをリスト化して潰していくのが好き | 1人の患者を深く追いかけるのが好き |
| スタッフ間の分業・チーム作業が得意 | 生活環境から問題を見つける観察が得意 |
| 移動時間はできるだけ減らしたい | 移動や環境の変化をリフレッシュと感じられる |
| 予定どおりに進む働き方が合う | 予定変更や臨時対応に柔軟に動ける |
より詳しい適性の考え方は「在宅薬剤師に向いている人・向いていない人|7つの適性」でチェックリスト化しています。なお、どちらか一方しかできない必要はなく、実際には両方を経験して自分の軸足を決める薬剤師がほとんどです。求人票を見るときは「施設と個人宅の比率」「1日の平均訪問件数の考え方」を確認すると、入職後のギャップを減らせます。
どちらから始めるべきか
薬局として新規参入する場合の定石は「施設で仕組みと経験をつくり、個人宅へ広げる」です。施設在宅は業務が定型化しやすく、在宅未経験の薬局でも回しやすいためです。一方で、施設契約は競争が激しく突然の切り替えリスクもあるため、中長期では個人在宅の比率を育てて収益源を分散するのが安定します。転職で在宅キャリアを始める薬剤師の場合も同様に、施設在宅の比率が高い職場で基礎を作り、個人在宅の件数が多い職場や担当へ広げていくと無理がありません。在宅の依頼を安定して増やす営業の進め方は「在宅の依頼を増やす薬局の営業完全ガイド」で解説しています。
施設から個人宅へ広げるときの注意
- 業務フローを作り直す:施設の配薬フローをそのまま個人宅に流用すると、残薬確認・生活環境の観察が抜け落ちる
- 時間の見積もりを変える:個人宅は1件あたりの滞在・移動が長い。施設の感覚で件数を詰めると破綻する
- 紹介元を分散する:ケアマネ・診療所など個人宅の紹介ルートを複数持つと、施設契約への依存度が下がる
- 算定区分の再確認:施設(10人以上)と個人宅(1人)では単位数も保険の判断も異なる
施設在宅で作った「正確に回す仕組み」に、個人在宅の「観察と提案」を積み上げるイメージで移行すると、両方の強みを持つ薬局になれます。移行期は「施設の訪問日」と「個人宅の訪問日」を曜日で分けると、業務モードの切り替えがしやすく、スタッフのシフト設計も単純になります。
よくある質問(FAQ)
施設在宅と個人在宅、収益性が高いのはどちらですか?
1件あたりの単価は個人在宅(単一建物1人=518単位)が高く、総額の積み上げは施設在宅が有利です。施設は件数型、個人宅は単価型と理解するのが正確です。
在宅未経験の薬局はどちらから始めるべきですか?
施設在宅からが定石です。業務を定型化しやすく、経験と体制を作りやすいためです。そのうえで個人在宅を育てて収益源を分散させるのが安定します。
施設在宅の注意点はありますか?
契約切り替えのリスクです。施設との契約は競争が激しく、1つの施設に依存すると切り替え時の打撃が大きいため、複数施設・個人宅への分散が重要です。
薬剤師個人のキャリアとしてはどちらの経験が有利ですか?
両方の経験があるのが最も強く、順序としては施設で在宅業務の基礎を固め、個人在宅で観察力・処方提案力を磨く流れが王道です。転職市場では個別対応力を示せる個人在宅の経験が語りやすい一方、施設運用の仕組み化経験は管理職候補として評価されます。
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

