執筆:薬剤師マル(在宅ファーマ編集長)
「在宅薬剤師って、実際どんな1日を過ごしているの?」——転職を検討する薬剤師や、在宅シフトを始めたい薬局経営者にとって、最も知りたいのは「リアルな業務の流れ」です。本記事では、訪問前の準備・訪問中の業務・訪問後の事務作業まで、在宅薬剤師の1日を時間軸で詳細に追いかけます。施設在宅と個人宅在宅の両方のパターン、ピーク時間帯の対応、訪問件数の現実的な目安まで、現場のリアルを徹底解説します。
在宅薬剤師の1日【標準モデル】
まずは「平均的な在宅薬剤師の1日」を時系列で整理します。月の訪問件数50〜80件、薬剤師2〜3人体制の中規模在宅薬局を想定。
| 時間帯 | 主な業務 | 備考 |
|---|---|---|
| 8:30〜9:00 | 出社・朝礼・本日の訪問プラン確認 | 処方変更・連絡事項共有 |
| 9:00〜10:00 | 訪問準備(薬剤調剤・お薬カレンダーセット) | 1件あたり10〜15分 |
| 10:00〜12:00 | 午前の訪問(2〜3件) | 個人宅または施設 |
| 12:00〜13:00 | 昼休憩・移動 | 個人宅訪問の場合は車内で休憩も |
| 13:00〜16:00 | 午後の訪問(3〜4件) | 1日合計5〜7件が標準 |
| 16:00〜17:30 | 帰局・薬歴記録・医師への報告 | 多職種への情報提供書作成 |
| 17:30〜18:00 | 翌日準備・退勤 | 翌日の処方箋確認・薬剤発注 |
訪問前【出社〜出発】の準備業務
朝礼で確認する5項目
- 本日の訪問順序とルート(経験のある薬剤師がチェック)
- 処方変更・新規処方の有無
- 前日の訪問で生じた申し送り事項
- 多職種からの連絡(ケアマネ・訪問看護)
- 緊急対応が必要な患者の状況
訪問前の調剤・準備
- 処方箋に基づく調剤(一包化・1日複数回分の仕分け)
- お薬カレンダーへのセット(1〜2週間分)
- 訪問バッグの確認(持ち物リスト・忘れ物チェック)
- 訪問先住所・ルートの最終確認
- 緊急連絡先(医師・ケアマネ)の確認
訪問中【患者宅・施設での業務】
個人宅訪問の流れ(所要30〜60分/件)
- 入室時:患者・家族への挨拶、体調確認
- 残薬確認:前回からの残薬整理
- 服薬指導:薬剤の説明、副作用の確認
- 家族介護者への指導:服薬介助のポイント、注意事項
- 多職種連携:必要に応じて訪問看護師・ケアマネへの情報共有
- 退室時:次回訪問日確認、緊急時の連絡方法
施設訪問の流れ(所要60〜120分/施設)
- 施設職員と打ち合わせ:当日の状態変化・申し送り
- 入居者ごとの服薬チェック:服薬状況・副作用・効果の確認
- 介護職員への指導:服薬介助の注意点、緊急時対応
- 多職種カンファレンス:嘱託医・看護師・介護長との情報共有
- 記録・報告書作成:施設内記録への記入
1施設で複数入居者を担当するため、効率は良いが、全員分の薬剤確認と職員指導で2時間以上かかることもあります。
訪問後【帰局後の事務作業】
薬歴記録(30〜60分)
訪問時に得た情報を電子薬歴に記録。タブレット端末で訪問先での記録を進める薬局も増えていますが、最終的なまとめは帰局後に行います。
- SOAP形式での記録
- 服薬状況の変化(残薬量、嚥下状態、副作用)
- 多職種への情報提供書の作成
- 処方提案・疑義照会の記録
医師・多職種への報告
- 訪問医師への報告書送付(FAX・電子カルテ連携)
- ケアマネへの情報提供(ICTツール・電話)
- 訪問看護師との情報共有
- 処方変更が必要な場合は速やかに医師へ連絡
時期別の業務の波
月初・月末は事務作業が集中
- 月初(1〜5日):レセプト業務、前月分の報告書作成、診療報酬請求
- 月末(25〜31日):当月分の業務締め、報酬集計
処方変更が集中する時期
- 診療報酬改定時(2年に1回の4月)
- 季節の変わり目(インフルエンザ流行期等)
- 退院後の患者受け入れ時(処方の見直しが多い)
役職別の1日の違い
一般訪問薬剤師
- 主業務:訪問と薬歴記録
- 1日訪問件数:5〜7件
- 残業時間:月10〜25時間
在宅専任のチーフ薬剤師
- 主業務:訪問+業務改善+多職種連携
- 1日訪問件数:3〜5件(残りは管理業務)
- 残業時間:月15〜30時間
管理薬剤師(在宅対応店舗)
- 主業務:店舗管理+訪問(一部)+経営判断
- 1日訪問件数:1〜3件
- 残業時間:月20〜40時間
よくある質問
Q. 1日の訪問件数の理想は?
A. 個人宅中心なら1日5〜7件、施設在宅中心なら1日2〜3施設(合計20〜30名)が適正レンジ。これ以上だと薬歴記録の品質が落ち、訪問1件あたりの価値が下がります。
Q. 残業はどれくらいありますか?
A. 月10〜25時間が標準ですが、月初・月末は事務作業集中で増えがちです。薬局の残業削減方法で紹介している電子薬歴の活用やリアルタイム入力で大幅に短縮可能です。
Q. 個人宅と施設、どちらが大変ですか?
A. 個人宅は移動時間が長く、訪問先の家族介護者対応が必要で「移動疲れ」がたまります。施設は一度に多人数を見るため集中力が必要で「精神的疲労」が大きい。ミックスで運用するのが最も負荷バランスが良いです。
Q. 緊急訪問の頻度は?
A. 月1〜3回程度。終末期患者や麻薬使用患者を担当する薬局では、夜間・週末の緊急対応も発生します。輪番制で対応する薬局が多いです。
まとめ:在宅薬剤師の1日は「準備・訪問・記録」の3層構造
在宅薬剤師の1日は、調剤専業の薬剤師とは異なるリズムで動きます。訪問という「現場業務」と、記録・連携という「事務業務」の両立が求められ、時間の使い方が成果を左右します。
これから在宅シフトを始める薬剤師・薬局経営者は、本記事の標準モデルを基準に、自店の業務設計に落とし込んでみてください。「想像していた以上に充実感のある業務」と感じる薬剤師が多いのも、在宅医療の魅力です。

