2026年7月28日、熊本県で最大震度7の地震が発生しました。県内では数万戸規模の停電が起き、鉄道や航空にも運休が広がりました。熊本での震度7の観測は3回目です。在宅医療を担う薬局にとって、災害は「起きるかもしれないこと」ではなく、定期的に起きることとして備える対象になっています。
防災の記事の多くは平時の備えを扱いますが、実際に困るのは発災直後です。誰から連絡するのか、薬局が被災していたらどうするのか、冷蔵庫が止まったらどうするのか。この記事では、地震が起きた直後から72時間の動きを時間軸で整理します。結論として、事前に決めておくべきなのは「優先して安否確認する患者のリスト」と「電話が使えないときの連絡手段」の2つです。この2つがないと、発災直後の数時間が判断だけで消えます。
時間軸で見る、発災後にやること
まず全体像です。細部は薬局の状況によって変わりますが、順序はおおむね共通しています。
| 時間帯 | やること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 〜3時間 | スタッフの安否確認、薬局の被害確認、優先患者への連絡 | まず人。動ける人数が決まらないと計画が立たない |
| 3〜24時間 | 在庫と冷所保存薬の状況確認、訪問可否の判断 | 停電と道路状況。無理な訪問はしない |
| 24〜72時間 | 薬が切れる患者の把握、行政・薬剤師会からの情報収集 | 手元の残薬日数が最優先の指標 |
| 72時間以降 | 通常業務への復帰計画、記録の整理 | 段階的に戻す。一気に通常体制へ戻さない |
この表で最も重要なのは、最初の3時間に「優先患者への連絡」が入っている点です。全員に一斉に連絡しようとすると回線も人手も足りません。優先順位をあらかじめ決めておくことが、発災後の初動を左右します。
誰から連絡するか|優先順位の決め方
優先度は「薬が途切れたときに、どれだけ早く命に関わるか」で決めます。次のような患者を上位に置きます。
- 医療用麻薬を使用している患者:中断の影響が大きく、代替もききにくい
- インスリンなど冷所保存の注射薬を使う患者:停電で保管が崩れる
- 在宅酸素・人工呼吸器など電源が必要な患者:停電が直ちに生命に関わる
- 抗てんかん薬・向精神薬・ステロイドを継続中の患者:急な中断が危険
- 独居・老老介護の世帯:家族による代替対応が期待しにくい
このリストは災害が起きてから作れません。平時に作り、更新の担当者と頻度を決めておきます。医療用麻薬を扱う患者の管理は医療用麻薬の在宅管理、独居世帯への関わり方は独居の親の服薬が心配で扱っています。
連絡手段も複線化しておきます。災害時は音声通話がつながりにくくなる一方、データ通信は比較的つながることがあります。電話に加えて、メッセージアプリでの連絡経路を平時から患者・家族と作っておくと初動が速くなります。運用例はLINEで患者・家族とつながる在宅薬局を参考にしてください。
停電時の薬の扱い
今回の地震でも県内で広範囲の停電が発生しました。停電は在宅の薬剤管理に直接影響します。とくに冷所保存の薬をどう扱うかは、患者・家族から必ず質問が出ます。
- 冷蔵庫は開けない:扉を閉じたままなら庫内温度はしばらく保たれる
- 保冷剤とクーラーボックスに移す判断は早めに:復旧の見通しが立たない場合
- 凍結させない:保冷剤に直接触れさせない
- 自己判断で廃棄させない:使用可否は製品ごとに異なるため必ず相談してもらう
薬局側も同じです。自局の冷蔵設備が止まった場合に備え、保冷手段と、どの時点で他店舗や卸に相談するかの目安を決めておきます。夏場は特に高温になるため、常温保管の薬にも影響が及びます。
処方箋が手に入らないとき
大規模災害では、医療機関の機能が停止し、処方箋の発行が受けられない事態が起こります。過去の災害では、状況に応じて厚生労働省や都道府県から事務連絡が出され、特例的な取り扱いが示されたことがあります。
ここで大切なのは、現場で独自に判断しないことです。特例の有無と範囲はそのときの災害ごとに異なります。都道府県薬剤師会、保健所、行政からの情報を確認したうえで対応します。平時にやっておくべきなのは、その情報がどこから届くのかを把握し、受け取る担当者を決めておくことです。
患者側の備えとしては、お薬手帳の重要性を平時から伝えておきます。手帳があれば、避難先の医療機関でも服用中の薬を正確に伝えられます。紙の手帳と電子版の両方を持っておくと、どちらかが手元になくても対応できます。
平時に決めておく3つのこと
発災後にできることは、平時に決めた範囲を超えません。最低限、次の3つは文書にしておきます。
| 項目 | 決めておく内容 | 更新の目安 |
|---|---|---|
| 優先患者リスト | 薬剤・医療機器・世帯状況から優先度を3段階で設定 | 月1回 |
| 連絡手段 | スタッフ間・患者家族・多職種の連絡経路を複線化 | 半年に1回 |
| 持ち出し品 | 優先患者リスト、連絡先、記録用紙、保冷手段 | 年1回 |
体制づくりの全体像は薬剤師の災害対策完全ガイドに、これから始める場合の最初の一歩は薬局の防災対策はまず何から?にまとめています。本記事は発災直後の動きに絞っているため、平時の備蓄医薬品やBCPの策定はそちらをあわせてご覧ください。
多職種との事前共有も欠かせません。訪問看護やケアマネジャーと、災害時に誰がどの患者を見るかを大まかにでも決めておくと、重複と抜けが減ります。連携づくりは訪問看護ステーションとの連携が参考になります。
まとめ
災害時の在宅対応で差がつくのは、知識の量ではなく事前の準備です。優先して連絡すべき患者が誰かを決めてあるか、電話が使えないときの手段があるか、停電時に冷所保存薬をどう扱うかを患者へ伝えてあるか。この3点が揃っていれば、発災直後の混乱の中でも動けます。逆にどれか一つでも欠けていると、最初の数時間が判断だけで過ぎていきます。今回の地震のように、大きな地震は忘れた頃ではなく繰り返し起きています。平時のうちに、リストと連絡手段だけでも先に整えておきましょう。被災地の一日も早い復旧をお祈りします。
よくある質問(FAQ)
地震が起きたとき、最初に何をすればよいですか?
スタッフの安否と薬局の被害を確認し、動ける人数を把握します。そのうえで、事前に決めた優先患者リストの順に連絡します。全員へ一斉に連絡しようとしないことが大切です。
停電したとき、冷所保存の薬はどうすればよいですか?
まず冷蔵庫の扉を開けないよう伝えます。復旧の見通しが立たない場合は保冷剤とクーラーボックスへの移し替えを検討しますが、凍結させないこと、自己判断で廃棄しないことを必ず伝えてください。
処方箋がもらえないとき、薬を渡してよいですか?
災害の状況に応じて行政から特例的な取り扱いが示される場合がありますが、内容は災害ごとに異なります。現場で独自に判断せず、都道府県薬剤師会・保健所・行政からの情報を確認して対応してください。
優先患者リストはどのように作ればよいですか?
薬が途切れたときの影響の大きさで判断します。医療用麻薬、冷所保存の注射薬、電源が必要な医療機器、急な中断が危険な薬を使う患者、独居世帯を上位に置き、月1回を目安に更新します。
最終更新日:2026年7月29日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料、報道発表を確認のうえ作成しています。制度の取り扱いは変更されることがあるため、最新の内容は原典で必ずご確認ください。

