在宅訪問後の薬歴記載に「何をどこまで書けばいいのか分からない」と悩む薬剤師は多いです。外来と違い、在宅では生活環境や介護状況、多職種との連携内容など記録すべき情報が格段に増えます。
しかし、書くべき情報が多いからこそフォーマットが重要です。SOAP形式を基本にしつつ、在宅特有の項目を加えたテンプレートを使えば、記載の漏れを防ぎながら効率的に記録できます。
SOAPの基本と在宅での応用

SOAP形式は医療記録の世界標準です。在宅薬歴では、各項目に以下の内容を記載します。
| SOAP | 意味 | 在宅で記載する内容 |
|---|---|---|
| S(Subjective) | 主観的情報 | 患者・家族の訴え、生活上の困りごと、服薬に関する発言 |
| O(Objective) | 客観的情報 | バイタル、残薬数、ADL変化、居住環境の変化、他職種からの情報 |
| A(Assessment) | 評価 | 薬学的問題点の評価、副作用の可能性、アドヒアランスの判定 |
| P(Plan) | 計画 | 次回確認事項、処方提案内容、多職種への情報共有予定 |
外来薬歴との最大の違いは、O(客観的情報)の範囲の広さです。在宅では患者の居住環境、家族の介護力、ADL(日常生活動作)の変化など、薬以外の情報も薬学的ケアに直結します。
場面別SOAPテンプレート
テンプレート1:定期訪問(安定期)
【S】「最近は調子がいい。食欲も出てきた」(本人)
「夕方の薬だけたまに忘れる」(娘)
【O】BP 128/76, P 72, 体温 36.4℃
残薬:アムロジピン5mg 7錠余り(28日分中)
一包化カレンダー確認:夕分の飲み残し週2回程度
ADL:屋内歩行自立、入浴は介助
【A】夕食後の服薬アドヒアランスに課題あり
血圧コントロールはおおむね良好
アムロジピン残薬は飲み忘れと一致
【P】夕食後→朝食後への用法変更を医師に提案
次回訪問時に残薬数の再確認
ケアマネに服薬状況を共有
テンプレート2:初回訪問
【S】「入院中は看護師さんが管理してくれたが
自分では不安」(本人)
「仕事があるので日中は見られない」(長男)
【O】退院時処方:8種類14錠/日
居住環境:2階建て戸建、寝室は1階に移動済み
保管状況:すべて薬袋のまま食卓の上に散乱
介護認定:要介護2、週3回ヘルパー利用
既往歴:脳梗塞後遺症、2型糖尿病、高血圧
【A】本人の服薬自己管理能力に不安あり
朝・昼・夕・眠前の4回服用は負担が大きい
ヘルパー訪問時間と服薬タイミングの調整が必要
【P】一包化を医師に提案
お薬カレンダー設置(翌訪問時に持参)
ヘルパーの訪問スケジュールを確認し
朝の服薬確認を依頼できるか検討
ケアマネに服薬支援の必要性を報告
テンプレート3:状態変化時(副作用疑い)
【S】「3日前から足がむくんで靴が履けない」(本人)
「食事量は変わらないが体重が2kg増えた」(妻)
【O】BP 148/92, P 88, 体温 36.2℃
両下腿に圧痕性浮腫(+2)、体重 62kg(前回60kg)
服薬状況:全薬剤アドヒアランス良好
追加薬:アムロジピン5mg→10mgに増量(10日前)
【A】アムロジピン増量後の末梢性浮腫の可能性が高い
CCBによる浮腫はよくある副作用
血圧は増量後も目標未達
【P】医師に電話連絡:アムロジピン増量と浮腫の
時系列の一致を報告
ARBへの変更または併用を提案
次回訪問は1週間後に前倒し
体重・浮腫の経過観察を家族に依頼
効率的に書くためのコツ

コツ1:訪問中にメモを取る
スマートフォンや小型のメモ帳で、訪問中にキーワードだけ記録しておきます。「BP 128、残薬アムロ7錠、夕忘れ」程度のメモがあれば、帰社後のSOAP記載は格段に速くなります。
コツ2:テンプレートを電子薬歴に登録する
使用頻度の高いSOAPパターンをテンプレートとして薬歴システムに登録しておきます。「定期訪問・安定」「初回訪問」「状態変化」の3パターンがあれば、8割の訪問をカバーできます。
コツ3:A(評価)を先に考える
記載に迷ったときは、まず「今日の訪問で見つけた薬学的問題は何か?」を明確にします。Aが決まれば、SとOには「その評価の根拠となる情報」だけを書き、Pには「その問題への対応策」を書くという流れが自然にできます。
コツ4:次回の自分へのメモを残す
Pの最後に「次回確認:浮腫の経過、体重変化」のように次回訪問で確認すべきことを書いておくと、次の訪問準備が楽になります。
薬歴記載の法的な注意点
薬歴は法的な記録であり、調剤録と同様に3年間の保存義務があります。また、個別指導では「SOAPが適切に記載されているか」「患者の状態に基づいた薬学的管理がなされているか」がチェックされます。
記載のポイントは以下の3点です。
- 事実と評価を分離する:SとOには事実を、Aには薬剤師としての判断を書く
- 指導内容を具体的に書く:「服薬指導した」ではなく「飲み忘れ時の対応(次の服用からでOK)を説明した」と記載
- 日時と対応者を明記する:「〇月〇日 14:00 自宅訪問 薬剤師マル」
筆者の失敗談
在宅を始めた頃、訪問後の薬歴記載に毎回30分以上かかっていました。原因は「全部書こうとしていた」こと。患者さんの生活の話、天気の話、家族の近況まで書いていたのです。
先輩に「それは日記であって薬歴ではない」と指摘され、「薬学的問題に関係する情報だけ」に絞る意識を持つようになりました。それ以来、1件あたり10分以内で記載できるようになっています。
テンプレートを活用して「書く内容」を定型化し、「考える内容(A)」に時間を使う。これが効率と質を両立させるコツだと感じています。
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参考リンク
出典・参考(一次情報)
本記事の点数・単位数・算定要件は、公開時点の厚生労働省の告示・通知・疑義解釈資料等にもとづいています。実際の算定にあたっては、必ず最新の一次資料をご確認ください。
- 厚生労働省(診療報酬・介護報酬の告示・通知・疑義解釈資料)
- WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)(介護報酬・介護保険制度の解説)
- e-Gov法令検索(健康保険法・介護保険法などの条文)
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。
よくある質問
Q. 在宅の薬歴は外来のSOAPと何が違いますか?
A. 最大の違いはO(客観的情報)の範囲の広さとされています。在宅では患者の居住環境、家族の介護力、ADL(日常生活動作)の変化など、薬以外の情報も薬学的ケアに直結するため、バイタルや残薬数に加えて他職種からの情報なども記載対象になります。
Q. 在宅の薬歴を効率的に書くコツはありますか?
A. 訪問中にキーワードだけメモする、使用頻度の高いSOAPパターンを電子薬歴にテンプレート登録する、A(評価)を先に考えてからSとOにその根拠情報を書く、Pの最後に次回確認事項を残す、という4つのコツが紹介されています。「定期訪問・安定」「初回訪問」「状態変化」の3パターンがあれば8割の訪問をカバーできるとされています。
Q. 薬歴には保存義務がありますか?
A. 薬歴は法的な記録であり、調剤録と同様に3年間の保存義務があるとされています。また個別指導では、SOAPが適切に記載されているか、患者の状態に基づいた薬学的管理がなされているかがチェックされるため、日頃から適切な形式で記載しておくことが重要です。
Q. 薬歴記載で気をつけるべきポイントは何ですか?
A. 記事では3点が挙げられています。SとOには事実を、Aには薬剤師としての判断を書いて事実と評価を分離すること、「服薬指導した」ではなく説明した内容まで具体的に書くこと、日時と対応者を明記することです。また、薬学的問題に関係する情報だけに絞る意識が、記載の効率と質の両立につながるとされています。

