「処方箋がなくても気軽に相談できる薬局」——これが健康サポート薬局の目指す姿です。2016年に制度化されたこの仕組みは、薬局を「薬を渡す場所」から「地域の健康相談窓口」へと変えるものです。
しかし、制度開始から10年近く経った今も、届出数は全国で数千店舗にとどまっています。要件が厳しいのか、メリットが薄いのか。本記事では、健康サポート薬局の実態を正直にお伝えします。
健康サポート薬局とは
健康サポート薬局は、かかりつけ薬剤師・薬局の機能に加えて、地域住民の健康維持・増進に積極的に取り組む薬局として、都道府県知事に届け出た薬局です。
地域連携薬局が「医療との連携」に重点を置いているのに対し、健康サポート薬局は「予防・健康づくり」に重点を置いています。処方箋を持っていない地域住民が、健康について気軽に相談できる場所——これがコンセプトです。
具体的には、OTC薬の販売相談、健康相談会の開催、禁煙支援、栄養相談、健康測定会(血圧測定、骨密度測定など)を提供します。
届出要件
健康サポート薬局の要件は、かかりつけ薬剤師の要件をベースに、いくつかの追加要件が設けられています。
薬剤師の要件
研修を修了した薬剤師が常駐していることが必要です。厚生労働大臣が定める研修には、国民の健康づくりに関する研修と、薬局内外の連携に関する研修が含まれます。30時間以上の研修プログラムで、日本薬剤師会や都道府県薬剤師会が提供しています。
薬局の構造
プライバシーが確保された個室または準個室の相談コーナーが必要です。健康相談は個人的な内容を含むことが多いため、他の来局者に聞かれない環境が求められます。
土日・祝日を含む一定時間以上の開局も求められます。健康相談は平日の日中だけでは対応しきれないため、地域住民が利用しやすい営業時間が条件です。
品揃えと情報提供
要指導医薬品と一般用医薬品(OTC薬)を適切に取り揃えることが必要です。処方箋なしで来局した方に対して、セルフメディケーションの支援ができるだけの品揃えが求められます。
また、地域の医療機関、介護施設、行政サービスの情報を整理し、必要に応じて案内できる体制が必要です。いわば「地域の健康情報ハブ」としての機能です。
実際の運営
健康相談会の開催
多くの健康サポート薬局では、月に1〜2回程度の健康相談会や測定会を開催しています。内容は血圧測定会、骨密度測定会、お薬相談会、認知症チェック、フレイルチェックなど多様です。
これらのイベントは、薬局のファンを作る絶好の機会です。処方箋を持っていない地域住民に薬局の存在を知ってもらい、いざ処方箋が出たとき「あの薬局に行こう」と思ってもらえる関係を築きます。
OTC相談の実際
健康サポート薬局では、「風邪っぽいけど病院に行くほどではない」「サプリメントで何がおすすめ?」といった相談が日常的に入ります。
こうした相談に対して、薬剤師としての専門知識を活かした適切なトリアージ(受診勧告かOTC対応かの判断)を行うことが重要です。「とりあえずこの薬を飲んでみてください」ではなく、症状を聞き取り、必要に応じて医療機関への受診を勧める——この判断力が、健康サポート薬局の薬剤師に求められるスキルです。
メリットと課題
メリット
健康サポート薬局の最大のメリットは、OTC販売を含む来局頻度の向上です。処方箋がなくても来てもらえる薬局になることで、リピーターが増え、結果的に処方箋の応需にもつながります。
もう一つのメリットは、地域でのプレゼンスの向上です。健康相談会を開催すると、地域の自治会や包括支援センターとのつながりが生まれます。これは在宅患者の紹介にもつながる貴重なネットワークです。
課題
正直なところ、健康サポート薬局の届出には、直接的な報酬上のメリットがほとんどありません。地域連携薬局と異なり、届出だけではブランド力も限定的です。
また、OTC薬の在庫を充実させるには追加投資が必要で、健康相談会の運営には人手もかかります。投資対効果を考えると、すべての薬局に向いているわけではありません。
地域連携薬局・かかりつけ薬局との違い
| 制度 | 位置づけ | 根拠・手続き |
|---|---|---|
| 健康サポート薬局 | 市販薬や健康相談も含め、地域住民の健康維持を幅広く支援する薬局の「表示制度」 | 要件を満たして都道府県等に届出(表示) |
| 地域連携薬局 | 入退院時や在宅医療で他機関と連携できる体制を持つ薬局の「認定制度」 | 改正薬機法にもとづき都道府県知事が認定 |
| かかりつけ薬局・薬剤師 | 患者個人に継続的に関わる機能の呼び方(制度上の認定とは別概念) | 服薬情報の一元的・継続的な把握が中核 |
在宅・地域連携を軸に据えるなら、認定制度である「地域連携薬局」との違いを理解しておくと整理しやすくなります。
届出までの実務フロー
- 1. 研修の修了:健康サポート薬局に係る研修(技能習得型・知識習得型)を薬剤師が修了する
- 2. 体制の整備:相談スペース、要指導医薬品等の取扱い、開局時間、地域機関との連携先リストなど要件を整える
- 3. 届出・表示:所在地の都道府県等に届出し、基準適合を表示する(要件詳細は自治体の手引きで最終確認)
収益にどうつながるか(現実的な期待値)
健康サポート薬局の表示自体に直接の報酬加算はありません。効果は「地域住民との接点が増える→かかりつけ化→在宅・外来の処方応需につながる」という間接的な導線にあります。健康相談会やOTC相談は、処方箋がなくても来局する理由をつくる施策と位置づけるのが現実的です。なお、調剤報酬上の体制加算の要件との関係は改定で変わり得るため、算定要件は最新の告示・疑義解釈でご確認ください。
まとめ
健康サポート薬局は、直接的な報酬メリットは小さいものの、地域との関係構築や来局頻度の向上という間接的なリターンがあります。在宅に力を入れている薬局にとっては、地域連携薬局と健康サポート薬局の両方を取得することで、「この地域で最も頼れる薬局」というポジションを確立できます。
この記事は厚生労働省の公開資料に基づいて作成しています。
参考リンク
あわせて読みたい
出典・参考(一次情報)
本記事の点数・単位数・算定要件は、公開時点の厚生労働省の告示・通知・疑義解釈資料等にもとづいています。実際の算定にあたっては、必ず最新の一次資料をご確認ください。
- 厚生労働省(診療報酬・介護報酬の告示・通知・疑義解釈資料)
- WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)(介護報酬・介護保険制度の解説)
- e-Gov法令検索(健康保険法・介護保険法などの条文)
よくある質問(FAQ)
健康サポート薬局になると調剤報酬は上がりますか?
表示そのものに直接の加算はありません。地域住民との接点を増やし、かかりつけ化や在宅につなげる間接的な効果が中心です。体制加算との関係は最新の告示・疑義解釈でご確認ください。
健康サポート薬局と地域連携薬局はどちらを目指すべきですか?
在宅医療や医療機関との連携を軸にするなら地域連携薬局、OTC・健康相談など地域住民との接点づくりを軸にするなら健康サポート薬局が近道です。両立している薬局も多くあります。
届出に必要な研修はどこで受けられますか?
日本薬剤師会等が実施する「健康サポート薬局に係る研修」を修了する必要があります。開催時期・形式は実施団体の最新案内をご確認ください。
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

