在宅訪問を始めるとき、最初に迷うのが「医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料と介護保険の居宅療養管理指導、どちらを算定するのか」です。結論はシンプルで、患者さんが要介護・要支援認定を受けていれば介護保険、受けていなければ医療保険。年齢や病名ではなく「認定の有無」で決まります。本記事では両制度の違いを比較表で整理し、迷わず判定するためのフロー、ケアマネジャーへの説明のポイント、間違えやすい場面までを実務目線で解説します。
判定フロー:見るのは「介護認定の有無」だけ

両制度は「医師の指示にもとづいて薬剤師が患者宅を訪問し、薬学的管理指導を行う」という中身はほぼ同じです。違うのはどちらの保険から給付されるか。医療保険と介護保険の両方が使える場面では介護保険が優先されるルールがあるため、判定は次の順で確認すれば迷いません。
- 医師から訪問(薬学的管理指導)の指示が出る
- 患者が要介護・要支援認定を受けているかを確認する(介護保険証の有無、担当ケアマネジャーの有無)
- 認定あり → 介護保険の居宅療養管理指導を算定する
- 認定なし → 医療保険の在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定する
「高齢だから介護保険」「がんの患者さんだから医療保険」は、どちらも誤りです。認定を受けていない80代は医療保険ですし、認定を受けている60代は介護保険。判断材料は認定の有無だけ、と覚えてください。迷ったら初回の受付時点で介護保険証とケアマネジャーの有無を確認する運用にしておくと、請求段階での差し戻しを防げます。逆にいえば、ここさえ仕組みにしてしまえば、両制度の使い分けで悩む場面はほとんどなくなります。
比較表:対象患者・報酬・回数上限の違い
両制度の骨格を1つの表にまとめます。まずここを頭に入れれば、日々の判断はほぼ迷いません。
| 比較項目 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料(医療保険) | 居宅療養管理指導(介護保険) |
|---|---|---|
| 対象患者 | 要介護・要支援認定を受けていない通院困難な患者 | 要介護・要支援認定を受けている通院困難な患者 |
| 報酬(単一建物1人) | 650点 | 518単位 |
| 報酬(単一建物2〜9人) | 320点 | 379単位 |
| 報酬(単一建物10人以上) | 290点 | 342単位 |
| 回数上限 | 原則月4回まで(末期の悪性腫瘍等は週2回かつ月8回まで) | 原則月4回まで(末期の悪性腫瘍等は週2回かつ月8回まで) |
| 起点 | 医師の指示 | 医師の指示 |
| 訪問後の報告 | 医師へ報告 | 医師へ報告(ケアマネジャーにも情報提供) |
| ケアプランの限度額 | 介護保険外のため関係なし | 区分支給限度基準額の対象外 |
回数上限には、表に載せた患者1人あたりの上限とは別軸のものがあります。医療保険側では、保険薬剤師1人につき、在宅患者訪問薬剤管理指導料1〜3と服薬管理指導料「4のロ」(在宅患者へのオンライン薬剤管理指導)を合わせて週40回までと定められています(調剤点数表 区分15の1(9))。訪問件数を伸ばす局面では、患者ごとの月4回とあわせてこの薬剤師1人あたりの上限も見ておく必要があります。
介護保険は1単位≒10円(地域により異なる)で換算するため、報酬水準は両制度でおおむね近く、単一建物の人数区分や回数上限の構造もほぼ平行に設計されています。つまり実務で本当に重要なのは制度の中身の差ではなく、入口の判定(どちらの保険か)を間違えないことです。
もう1点、表の「単一建物の人数区分」は両制度共通の確認ポイントです。同じ建物で何人の患者を担当しているかで報酬の区分が変わるため、施設や集合住宅の案件では受け始める前に必ず確認します。また、両制度とも対象は「通院が困難な患者」であり、希望すれば誰でも算定できるものではない点も共通の前提です。人数の数え方の細部や介護保険側の算定要件は「居宅療養管理指導の算定要件と単価【完全ガイド】」で解説しています。
介護保険優先の原則と「限度額の対象外」という強み
要介護・要支援認定を受けている患者には介護保険の給付が優先されるため、認定のある患者に在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定することはできません。ここは請求で最も間違えやすいポイントです。
もう1つ、ケアマネジャーへの説明で必ず押さえたいのが、居宅療養管理指導は区分支給限度基準額(ケアプランの限度額)の対象外だという点です。訪問介護やデイサービスの利用枠を圧迫しないため、「限度額がいっぱいだから薬剤師の訪問は入れられない」という心配は不要です。依頼をためらうケアマネジャーにこの一言を添えるだけで、話が前に進むことは少なくありません。
説明のトークとしては「介護保険のサービスですが、ケアプランの枠は使いません。他のサービスを削らずに薬の管理だけ上乗せできます」が簡潔で伝わりやすい形です。限度額の心配がないと分かれば、ケアマネジャーは残薬や飲み忘れに気づいた時点で気軽に声をかけられるようになり、依頼の入り口が広がります。
共通する実務の流れ:指示→計画→訪問→報告

どちらの制度を算定する場合でも、実務の流れは共通です。
- 医師から訪問の指示を受ける(指示の内容と日付を記録に残す)
- 薬学的管理指導計画を作成する
- 患家を訪問し、薬学的管理指導を行う
- 訪問後、医師へ報告する(介護保険ではケアマネジャーにも情報提供する)
「医師の指示が起点」「計画を作る」「訪問後に報告する」の3点はどちらの保険でも変わりません。制度をまたいで切り替わっても、日々の業務の型は同じと考えて差し支えありません。計画には訪問頻度や薬学的管理の方針を、報告には服薬状況・残薬の状況・気づいた体調変化とその対応提案をまとめます。介護保険の場合はケアマネジャーへの情報提供も忘れずに。報告文書はケアプラン見直しの材料にもなるため、専門用語をかみ砕いた一文を添えると多職種連携がぐっとスムーズになります。
患者・家族への説明も実務の一部です。どちらの保険でも自己負担が生じること、介護保険では1単位≒10円(地域により異なる)で計算されることを最初に伝えておきます。保険の費用とは別に交通費を実費でいただく薬局もあるため、自局の扱いをあわせて説明しておくと、後々の金銭トラブルを防げます。
間違えやすいケース:算定できない場面に注意
入口の判定が合っていても、患者の居場所によって算定できない期間があります。代表例は次のとおりです。
- 入院中は算定不可:入院期間中は両制度とも算定できません
- ショートステイ利用中は算定不可:短期入所生活介護等の利用期間中、居宅療養管理指導は算定できません
- 特別養護老人ホームは原則算定不可(末期の悪性腫瘍の場合のみ例外)。老健・介護医療院は算定不可
場所に加えて距離にも要件があります。医療保険側では、保険薬局(在宅協力薬局を含む)の所在地と患家の所在地の距離が16キロメートルを超える訪問は、患家から半径16km圏内に訪問薬剤管理指導の届出をしている薬局が存在しないなど、当該薬局からの訪問を必要とする特殊な事情がある場合に限って認められます。この場合は16km以内と同様に算定できます。一方、特殊な事情がなく患家の希望だけで16kmを超えて訪問した場合、在宅患者訪問薬剤管理指導料は保険診療として認められず患者負担になります(調剤点数表 区分15の7(1))。判定は「患家を中心とする半径16kmの圏域の外側に自局があるか」で行います。
施設の種類ごとの可否は「居宅療養管理指導が算定できないケース」で一覧にしています。「認定が下りたばかり」「入退院やショートステイを挟んだ」など患者の状況が動いた月は、算定先の判定と算定可否の両方を見直すタイミングです。判定に迷う条件が重なったときは「在宅算定 まるごと判定(無料)」で自局のケースを確認できます。
まとめ:判定は「認定の有無」、実務の型は共通
医療保険か介護保険かは、要介護・要支援認定の有無だけで決まります。報酬は650点・320点・290点と518単位・379単位・342単位でおおむね対応しており、指示→計画→訪問→報告という実務の型も共通。受付時に認定の有無を確認する一手間と、状況が動いた月の見直しを仕組みにすれば、この論点で迷うことはなくなります。制度の理解を最初に固めておくことが、在宅の請求を安定させる一番の近道です。
よくある質問(FAQ)
要介護認定を受けている患者に在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定できますか?
できません。要介護・要支援認定を受けている患者は介護保険の給付が優先されるため、居宅療養管理指導を算定します。医療保険で算定できるのは認定を受けていない患者のみです。
医療保険と介護保険で報酬はどのくらい違いますか?
医療保険は650点(1人)・320点(2〜9人)・290点(10人以上)、介護保険は518単位・379単位・342単位です。1単位≒10円(地域により異なる)のため水準はおおむね近く、実務上は入口の判定を間違えないことが重要です。
月の途中で要介護認定が下りた場合はどうなりますか?
認定を受けた後は介護保険の居宅療養管理指導が優先になります。切り替えの細かな取り扱いは保険者により運用が異なる場合があるため、迷ったら保険者・審査支払機関に確認してください。
最終更新日:2026年7月4日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

