「在宅を始めたけど、何を数値として追えばいいか分からない」——在宅業務に取り組む薬局からよく聞く声です。
店舗の調剤薬局であれば処方箋枚数や技術料が定番のKPIですが、在宅業務には在宅特有の指標があります。数値で管理しなければ改善のしようがありません。
本記事では、在宅薬局の経営を「見える化」するための5つのKPIと、それを実際に運用するための数値管理のコツを解説します。
目次
なぜ在宅薬局にKPI管理が必要なのか

在宅業務は「見えにくい」
店舗調剤であれば、処方箋枚数×単価という分かりやすい売上構造があります。しかし在宅業務は:
- 薬剤師ごとに訪問件数が異なる
- 移動時間の差が大きい
- 施設在宅と個人宅で単価が違う
- 算定漏れが起きやすい
「忙しかったのに利益が出ない」というのは、在宅でよくある話です。KPIを設定して追跡することで、どこにボトルネックがあるか特定できるようになります。
KPIがないとどうなるか
| 状態 | リスク |
|---|---|
| 訪問件数を把握していない | 薬剤師ごとの生産性差に気づけない |
| 移動時間を計測していない | 非効率なルートが放置される |
| 算定率を確認していない | 本来取れるはずの報酬を見逃す |
| 在宅比率を見ていない | 事業の方向性が定まらない |
| 患者の継続率を追っていない | 離脱に気づけず売上が減る |
KPI①:在宅訪問件数(1日あたり・薬剤師あたり)
定義
1日に薬剤師1人が行った在宅訪問の件数。
目安
| レベル | 件数/日 | 状態 |
|---|---|---|
| 少ない | 1〜2件 | 在宅を始めたばかり |
| 標準 | 3〜5件 | 安定運用 |
| 効率的 | 6〜8件 | ルート最適化ができている |
| 高負荷 | 9件以上 | 品質低下のリスクあり |
管理のポイント
- 薬剤師ごとに日次で記録する
- 施設在宅と個人宅は分けてカウントする
- 件数だけでなく「1件あたりの所要時間」もセットで管理する
- 件数の目標は店舗業務とのバランスを考慮して設定する
KPI②:訪問1件あたりの売上(単価)
定義
在宅訪問1件あたりの平均売上(薬剤料+技術料+居宅療養管理指導料)。
目安
| 区分 | 1件あたりの売上 |
|---|---|
| 個人宅(1人) | 5,170〜8,000円 |
| 施設(2〜9人) | 3,780〜5,000円 |
| 施設(10人以上) | 3,410〜4,500円 |
管理のポイント
- 居宅療養管理指導の単位数だけでなく、薬剤料・加算も含めた「総売上」で見る
- 施設在宅は件数が稼げる反面、単価が下がるため、個人宅とのバランスが重要
- 特定の施設に依存しすぎていないか、ポートフォリオを確認する
KPI③:移動時間と移動効率

定義
訪問先間の移動にかかった時間。1時間あたりの訪問件数で効率を測る。
目安
| 指標 | 目安 |
|---|---|
| 1件あたりの平均移動時間 | 10〜20分が理想 |
| 1時間あたりの訪問件数 | 1.5〜2.5件 |
| 移動時間の割合(業務時間中) | 30%以下が目標 |
管理のポイント
- 訪問ルートを曜日や地域で固定するとロスが減る
- Googleマップのルート最適化機能を活用する
- 訪問カレンダーに移動時間も含めて入力するルールを作る
- 月末にルートの見直し会議を行う
ルート最適化の具体例
| 改善前 | 改善後 |
|---|---|
| 個人宅A→施設B→個人宅C(バラバラ) | 施設B→個人宅A→個人宅C(エリア集約) |
| 1日の移動時間: 2時間30分 | 1日の移動時間: 1時間30分 |
| 訪問件数: 4件 | 訪問件数: 5件 |
KPI④:算定率(算定漏れ率)
定義
訪問を行った件数のうち、実際に居宅療養管理指導料を算定できた割合。
目安
| レベル | 算定率 |
|---|---|
| 要改善 | 80%未満 |
| 標準 | 80〜90% |
| 優秀 | 90%以上 |
算定漏れが起きやすいケース
| ケース | 対策 |
|---|---|
| 医師の指示書がない | 処方箋受領時に指示を確認するチェックリスト |
| ケアマネへの報告が漏れた | 訪問後24時間以内に報告するルール |
| 薬学的管理指導の記録が不十分 | テンプレートを用意して記録を標準化 |
| 介護保険と医療保険の使い分けミス | 初回訪問時に保険確認を入れるフロー |
| 月上限回数を超えて訪問 | 電子薬歴でアラートを設定 |
改善で見込める効果
算定率を80%→95%に改善した場合(在宅患者30名):
| 項目 | 改善前 | 改善後 |
|---|---|---|
| 月間訪問回数 | 80回 | 80回 |
| 実算定回数 | 64回 | 76回 |
| 月間売上差 | — | +約50,000〜60,000円 |
| 年間効果 | — | 約60〜72万円 |
KPI⑤:在宅患者の継続率
定義
前月の在宅患者のうち、翌月も訪問が継続している患者の割合。
目安
| レベル | 継続率 |
|---|---|
| 要注意 | 85%未満 |
| 標準 | 85〜93% |
| 良好 | 93%以上 |
離脱の主な原因
| 原因 | 割合(概算) | 対策 |
|---|---|---|
| ご逝去 | 30〜40% | |
| 入院 | 20〜30% | 退院後のフォローで復帰を促す |
| 施設入所 | 10〜15% | 入所先への訪問継続を提案 |
| 他薬局への切り替え | 5〜10% | サービス品質の向上で予防 |
| 通院可能になった | 5〜10% |
新規獲得とのバランス
継続率が低いと、新規患者を獲得しても穴の空いたバケツ状態になります。
| 指標 | 目安 |
|---|---|
| 月間新規患者数 | 2〜5名 |
| 月間離脱数 | 1〜3名 |
| 純増数 | +1〜2名/月 |
KPIダッシュボードの作り方
必要な項目
| 指標 | 推奨更新頻度 | 管理ツール |
|---|---|---|
| 訪問件数 | 日次 | スプレッドシート or Notion |
| 訪問単価 | 月次 | レセプトデータから |
| 移動時間 | 週次 | Googleカレンダー連携 |
| 算定率 | 月次 | レセプトデータから |
| 継続率 | 月次 | 患者リストから |
運用のコツ
- シンプルに始める:最初は訪問件数と算定率の2つだけでOK
- 見える場所に置く:朝礼で前日の数値を共有する
- 目標を立てる:月初に目標値を設定し、月末に振り返る
- 属人化させない:薬剤師全員がダッシュボードを見られるようにする
まとめ
| KPI | 目的 | 最優先で導入したいもの |
|---|---|---|
| ①訪問件数 | 業務量の把握 | ★★★★★ |
| ②訪問単価 | 収益性の確認 | ★★★★ |
| ③移動効率 | 生産性の向上 | ★★★ |
| ④算定率 | 取りこぼし防止 | ★★★★★ |
| ⑤継続率 | 事業の安定性 | ★★★★ |
KPI管理の本質は「改善のサイクルを回す」ことです。数値を追うこと自体が目的ではなく、課題を発見し、対策を打ち、効果を確認するためのツールとして活用してください。
まずは訪問件数と算定率の2つから始めて、徐々に管理項目を増やしていくことをおすすめします。
この記事は筆者の在宅薬局経営の実務経験に基づいて作成しています。

