薬局経営にとって在庫は「必要悪」のような存在です。欠品は患者さんに迷惑をかけますが、過剰在庫は資金を圧迫します。特に不動在庫(動きの遅い在庫)は、期限切れによる廃棄リスクを抱えた「眠っているお金」です。
多くの薬局で在庫管理は「経験と勘」に頼っています。しかし、データに基づいた管理に切り替えるだけで、不動在庫率を大幅に削減できます。本記事では、実務で使える5つのステップを具体的に解説します。
薬局の在庫問題の実態
一般的な薬局の在庫金額は、月商の0.5〜1.5ヶ月分と言われています。月商3,000万円の薬局であれば、1,500万〜4,500万円分の薬が倉庫や棚に眠っていることになります。
このうち不動在庫が占める割合は、管理が甘い薬局で15〜20%、しっかり管理している薬局で3〜5%程度です。つまり、管理の差だけで数百万円の資金効率が変わるのです。
不動在庫が発生する主な原因は、門前医療機関の処方変更に対する対応遅れ、発注ロットの問題(100錠単位でしか買えない)、そして在庫チェックの頻度不足です。
ステップ1:在庫の可視化
まず、今の在庫状況を「見える化」することから始めましょう。
最も簡単な方法は、レセコンのデータから直近3ヶ月の品目別使用量を出力し、それを現在の在庫量と突き合わせることです。「3ヶ月間で1度も動いていない品目」をリストアップするだけで、不動在庫の全体像が見えてきます。
このリストを月に1回作成し、掲示板に貼り出す薬局もあります。スタッフ全員が「うちの薬局にはこんなに動いていない薬がある」と認識するだけでも、発注時の意識が変わります。
ステップ2:ABC分析で優先順位をつける
すべての品目を同じ精度で管理するのは非効率です。ABC分析を使って、管理の優先順位をつけましょう。
ABC分析とは、在庫品目を使用金額の大きい順に並べ、上位から累積で70%を占めるグループをA、70〜90%をB、残りをCとする分類法です。
Aランクの品目は数が少ないけど金額的インパクトが大きいため、細かく管理します。発注点を設定し、在庫が一定量を下回ったら自動的に発注する仕組みを作ります。
Cランクの品目は金額的影響は小さいですが、品目数が多く管理に手間がかかります。このグループは「必要なときに都度発注する」方式に切り替えるのも一つの手です。最悪、翌日入荷で対応できる品目も多いはずです。
ステップ3:発注ルールの標準化
「誰が発注しても同じ結果になる」仕組みを作ることが重要です。
発注のルールとして、まず発注点(この数量を切ったら発注する)と発注量(1回あたりの発注量)を品目ごとに設定します。これを紙やスプレッドシートに記録し、誰でも参照できるようにします。
発注点の設定方法は、「1日あたりの平均使用量 × リードタイム(発注から入荷までの日数) × 安全係数(1.5程度)」が目安です。使用量が日に2錠、リードタイムが1日の場合、発注点は3錠(2×1×1.5)となります。
これを全品目に適用する必要はありません。Aランクの品目だけでも設定すれば、在庫の大半をカバーできます。
ステップ4:不動在庫の処分
既に不動在庫になってしまったものは、放置せずに積極的に処分しましょう。
処分の選択肢はいくつかあります。まず、近隣薬局との融通です。自分の薬局で動かない薬が、隣の薬局では必要ということは珍しくありません。地域の薬剤師会やLINEグループで「この薬を引き取ってくれる薬局はありませんか」と声をかけてみましょう。
次に、卸業者への返品交渉です。期限が十分に残っている場合は、卸に返品を受け入れてもらえることがあります。日頃の取引関係が良好であれば、相談に乗ってくれるでしょう。
最終手段として、期限切れ廃棄がありますが、この損失を出す前にできることを尽くしましょう。
ステップ5:定期的な棚卸し
在庫管理の最後のピースは、定期的な棚卸しです。
理想的には月1回、最低でも四半期に1回は棚卸しを行い、帳簿上の在庫と実際の在庫の差異を確認します。この差異(棚差)が大きい品目は、管理方法を見直す必要があります。
棚卸しというと大掛かりな作業に感じますが、すべての品目を毎回数える必要はありません。Aランク品目は毎月、Bランクは四半期、Cランクは半年、というように頻度を分けることで、負担を軽減できます。
まとめ
薬局の在庫管理は、「経験と勘」から「データとルール」に切り替えるだけで大きく改善します。5つのステップをすべて同時に始める必要はありません。まずはステップ1の可視化だけでも効果は実感できるはずです。
在庫が減れば、冷蔵庫や棚にスペースが生まれ、調剤室が使いやすくなります。そして何より、キャッシュフローが改善します。不動在庫の削減は、薬局経営を健全化する最も地味ですが最も確実な方法です。
この記事は薬局経営の一般的知識と筆者の実務経験に基づいて作成しています。

