「処方に疑問があるけど、疑義照会するほどではない。でも医師に情報を伝えたい」——こうした場面で活躍するのがトレーシングレポート(服薬情報等提供料)です。
トレーシングレポートは、疑義照会のように処方変更を即座に求めるものではなく、「次回の診察時に参考にしてください」というスタンスで情報を提供する仕組みです。しかし、書き方を間違えると「何が言いたいのか分からないレポート」になり、ゴミ箱行きになることも。本記事では、医師に読まれ、処方に反映されるトレーシングレポートの書き方を解説します。
トレーシングレポートとは
正式名称は「服薬情報等提供料」に関連する情報提供文書です。薬剤師が患者さんの服薬状況、副作用の兆候、残薬の情報などを、文書で医師に提供するものです。
疑義照会との違いは、即時性と強制力です。疑義照会は「この処方に疑問があるので、確認するまで調剤を止めます」という法的義務に基づく行為ですが、トレーシングレポートは「この情報を次回の診察で参考にしてください」という任意のコミュニケーションです。
| 項目 | 疑義照会 | トレーシングレポート |
|---|---|---|
| タイミング | 調剤前 | 調剤後いつでも |
| 即時対応 | 必要 | 不要 |
| 法的義務 | 薬剤師法に基づく | 任意 |
| 内容 | 処方の疑義 | 服薬状況、副作用、提案 |
| 算定 | なし | 服薬情報等提供料(30点 or 20点) |
医師に読まれるレポートの構造
トレーシングレポートの最大の課題は、「医師に読んでもらえるか」です。多忙な医師は、長いレポートを読む時間がありません。
結論から言うと、「SOAP形式で簡潔に書き、最後に具体的な提案を入れる」 のが最も効果的です。
推奨フォーマット
S(主観的情報): 患者さんの訴え、家族からの報告
O(客観的情報): バイタルサイン、残薬数、検査値
A(アセスメント): 薬剤師としての評価・分析
P(プラン): 具体的な提案
このフォーマットは医師が日常的に使用しているカルテの書き方と同じなので、非常に読みやすいです。
実例で学ぶ書き方
例1:残薬が多いケース
S: 「最近、朝の薬を飲み忘れることがある」と本人より。
O: 訪問時にアムロジピン5mgが14日分中6錠残薬あり。血圧 138/82mmHg。
A: 朝の服用忘れが常態化。血圧は軽度高値で推移しており、アドヒアランス低下が血圧コントロール不良の一因と考えます。
P: アムロジピン5mgの朝食後を夕食後に変更いただくか、テルミサルタン/アムロジピン配合錠への変更をご検討いただけますでしょうか。夕食は毎日規則正しく取られています。
例2:副作用が疑われるケース
S: 「2週間前から足がむくむ」と本人より。
O: 両下腿に圧痕性浮腫あり。体重が前月比+2.1kg。3週間前よりアムロジピン5mg→10mgに増量。
A: アムロジピン増量後のタイミングと浮腫出現が一致。Ca拮抗薬による末梢性浮腫が疑われます。
P: ARBの上乗せによるアムロジピンの減量、もしくはARB/Ca拮抗薬配合剤への切り替えをご検討いただけますでしょうか。
送付方法
トレーシングレポートの送付方法は、医療機関によって異なります。
FAXが最も一般的です。送信後、電話で一報を入れると確実に読んでもらえます。「トレーシングレポートをFAXさせていただきましたので、ご確認いただけますと幸いです」と一言添えるだけで十分です。
電子カルテ連携ができる環境であれば、直接カルテに情報を入力できます。大規模な医療機関やチェーン薬局では、こうしたシステム連携が進んでいます。
メールやチャットで受け付けている医師もいます。特に在宅専門のクリニックは、LINEやChatworkなどのチャットツールで薬剤師と直接やり取りしていることが多いです。
書くときの心構え
最後に、トレーシングレポートを書く際の心構えを3つお伝えします。
第一に、提案は具体的に。「ご再考ください」ではなく、「○○への変更をご検討ください」と具体薬剤名まで書きましょう。医師は忙しいので、具体的なほど検討しやすいのです。
第二に、批判のトーンにしない。「この処方は不適切です」ではなく、「以下の情報をお伝えいたします」というスタンスで書く。医師との関係を壊さない書き方が大切です。
第三に、書かないよりは書く。完璧なレポートを目指して書かないより、簡潔でも書いて送る方がはるかに価値があります。
まとめ
トレーシングレポートは、薬剤師の処方介入を「見える化」する最強のツールです。SOAP形式で簡潔に書き、具体的な提案を添える。これだけで、医師からの信頼が変わり、処方に反映される確率が格段に上がります。
この記事は筆者の実務経験に基づいて作成しています。

