「施設在宅を始めたいが、老健や特養との契約はどう取ればいいのか」——在宅の入口として施設をねらう薬局は増えています。個人宅を1軒ずつ増やすより、1施設と契約できれば複数の入居者を一度に担当でき、訪問効率も一気に上がるからです。
一方で、施設営業は「行けば取れる」ものではありません。施設側には既存の取引薬局があり、切り替えには相応の理由が要ります。本記事では、老健・特養・その他施設の違いを踏まえたうえで、契約に至るまでの営業の順序と、選ばれる薬局が備えている条件を実務目線で整理します。
施設の種類で「在宅の入り方」はまったく違う
ひとくちに施設といっても、薬の扱い方は施設類型によって大きく異なります。まず自分がねらう施設で薬剤師の在宅がどう成立するのかを押さえないと、営業の入口を間違えます。
| 施設類型 | 薬の位置づけ | 在宅の入り方 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 配置医の処方を外部薬局が調剤・配薬するケースが多い | 配薬・服薬管理の受け皿として契約。居宅療養管理指導の対象になる入居者もいる |
| 介護老人保健施設(老健) | 原則は施設内で薬剤費をまかなう包括の考え方が基本 | 外部薬局の在宅算定は制限が大きい。まず施設の運用実態と算定可否を確認する |
| サ高住・住宅型有料老人ホーム | 入居者は「在宅患者」として扱えることが多い | 個人在宅に近く、居宅療養管理指導の主戦場になりやすい |
| グループホーム | ユニット単位の少人数生活 | 算定可否や単一建物の数え方に注意が必要 |
老健は薬剤費の扱いが特殊で、外部薬局が在宅として関われる範囲が限られます。「老健=そのまま在宅の売上になる」と思い込むと空振りします。算定の可否は施設ごとの運用と最新ルールで変わるため、最新の告示・通知や疑義解釈、原典で必ずご確認ください。施設類型ごとの算定の考え方は特養・老健で居宅療養管理指導は算定できるかで詳しく整理しています。
契約前に自局で決めておくべき4つの体制
営業に出る前に、社内で「受けられる体制」を固めておきます。施設側は口約束の熱意ではなく、実際に回せるかどうかを見ています。
- 配薬の頻度と方法:週次配薬か、変更都度か。一包化・服薬カレンダー・施設カートのどれで納品するかを決める
- 急変・臨時処方への対応:夜間休日の連絡先、臨時処方が出たときの配送体制。ここが弱いと施設は不安で切り替えられない
- 訪問の担当と代替:担当薬剤師が休んだときに誰が入るか。1人依存だと施設リスクになる
- 記録と情報共有の型:施設看護・介護職と何を、どの様式で共有するか。多職種連携の設計は在宅医療の多職種連携の考え方が土台になる
施設在宅は個人在宅と業務の質が変わります。両者の違いを押さえておくと、体制設計の抜けが減ります。詳しくは施設在宅と個人在宅の違いを参照してください。
契約に至る営業の順序
施設営業は「決裁者は誰か」を外すと進みません。多くの場合、現場の看護・介護のキーパーソンが困りごとを抱え、施設長や事務長が最終判断をします。両方に別々の価値を示す必要があります。
- 1. 接点をつくる:ケアマネ・地域包括・配置医の紹介、既存患者の入居先など「縁」から入る。飛び込みより紹介の成約率が高い
- 2. 現場の困りごとを聞く:配薬ミス、残薬の山、臨時対応の遅さ、看護職の薬関連業務の負担など、施設が今困っていることを具体的に把握する
- 3. 解決案を体制で示す:「熱意」ではなく「この配薬フローで、この頻度で、この連絡体制で回します」と運用図で示す
- 4. 決裁者に採算と安心を提示:施設側のコスト・手間がどう減るか、事故が減るかを、施設長・事務長の言葉で説明する
- 5. 試行から本契約へ:1ユニット・一部フロアから小さく始め、実績を見せて全体に広げる
新規の在宅そのものの立ち上げ手順は薬局が在宅訪問を始めるには、営業全般の広げ方は在宅の依頼を増やす薬局の営業ガイドにまとめています。
選ばれる薬局・切られる薬局の分かれ目
| 評価軸 | 選ばれる薬局 | 切られやすい薬局 |
|---|---|---|
| 臨時対応 | 当日〜翌日で確実に届く体制がある | 「明日以降」が常態化し施設が困る |
| 配薬の正確さ | 入居者の入退去・処方変更に配薬がすぐ追従 | 古い分包が残り、変更が反映されない |
| 情報共有 | 変更点を看護・介護職に先回りで伝える | 薬局都合で黙って変える |
| 担当の安定 | 複数人で施設を支え、休んでも回る | 担当1人依存で属人化している |
施設は一度契約すると簡単には切り替えません。裏を返せば、既存薬局が上記のどこかでつまずいた瞬間が、あなたの薬局にとっての営業チャンスです。日頃から施設の困りごとにアンテナを張っておきましょう。
契約書・運用ルールで詰めておくこと
契約段階では、後々のトラブルを避けるために業務範囲を文書で明確にします。口頭合意のまま始めると、想定外の業務を無償で抱え込みがちです。
- 配薬の範囲(分包・カレンダーセットまで含むか、施設内配置は誰がやるか)
- 臨時処方・急変時の連絡フローと対応時間帯
- 施設看護・介護職との役割分担(服薬介助はあくまで施設側の業務)
- 個人情報・入居者情報の取り扱いと共有範囲
- 契約の見直し時期と、算定ルール改定時の運用変更の扱い
報酬の算定要件や加算の有無は改定で変わります。契約の前提が変わることもあるため、最新の告示・通知や疑義解釈、原典で必ずご確認ください。
施設在宅を軌道に乗せる最初の90日
契約が取れても、そこからの立ち上げでつまずくと信頼を失い、逆に切り替えの口実を与えてしまいます。最初の3か月は「約束したことを、約束どおりに、確実に回す」ことに集中する時期です。派手な提案より、地味な確実さが評価されます。
- 1か月目:フローを固める:配薬・臨時対応・情報共有の型を実際に回し、施設の運用に合わせて微調整する。ここで手順書を作っておくと属人化を防げる
- 2か月目:現場の信頼を得る:看護・介護職の困りごとを拾い、先回りで対応する。「この薬局は現場を分かっている」と思われることが次の広がりの土台になる
- 3か月目:実績を可視化する:残薬整理の成果、配薬ミスの減少、臨時対応の実績を施設長・事務長に見える形で共有し、範囲拡大や系列施設への紹介につなげる
立ち上げ期のよくある失敗は、担当薬剤師1人に負荷が集中して疲弊し、対応品質が落ちることです。最初から複数人で支える体制を意識し、無理のない訪問件数から始めましょう。訪問キャパの考え方は在宅全般の立ち上げと共通するため、体制設計は慎重に行ってください。
この記事のまとめ
施設在宅は、1施設で複数の入居者を担当できる効率のよい入口です。ただし成功の条件は、施設類型ごとの算定の理解と、日々の確実な対応にあります。要点を整理します。
- 施設類型で在宅の入り方が違う。特に老健は薬剤費の扱いが特殊で在宅算定の範囲が限られる
- 営業に出る前に、配薬・臨時対応・担当体制・情報共有の4つを社内で固めておく
- 契約は「困りごとの解決」を運用図で示し、決裁者に採算と安心を伝えて取る
- 選ばれ続けるカギは、臨時対応の速さ・配薬の正確さ・担当の非属人化・先回りの情報共有
よくある質問(FAQ)
老健と特養、どちらから営業すべきですか?
外部薬局が在宅として関わりやすいのは特養やサ高住・住宅型有料老人ホームです。老健は薬剤費の扱いが特殊で、外部薬局が在宅算定できる範囲が限られます。まずは在宅として成立しやすい施設から入り、老健は算定可否を個別に確認したうえで検討するのが現実的です。
既存の取引薬局がある施設に営業しても意味がありますか?
意味はあります。多くの施設に既存薬局はありますが、臨時対応の遅さや配薬ミス、担当の属人化などの不満を抱えていることは珍しくありません。切り替えは「今困っていること」を解決できると示せたときに起きます。日頃から関係をつくり、困りごとが表面化したときに動ける準備をしておきましょう。
施設在宅は個人在宅より儲かりますか?
1施設で複数の入居者を担当でき訪問効率が上がる一方、算定は単一建物居住者の人数区分などで個人在宅と異なります。件数がまとまる分、収益は安定しやすいものの、単価の考え方は複雑です。収益の見立ては最新の算定ルールで試算し、点数は原典で確認してください。
最初の1施設はどうやって見つければいいですか?
飛び込みより、既存患者の入居先、ケアマネや地域包括からの紹介、配置医とのつながりなど「縁」から入るのが成約に近い道です。まず1ユニット・一部フロアの試行から始め、実績を見せて範囲を広げる進め方が施設側も受け入れやすいです。
最終更新日:2026年7月9日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

