「管理薬剤師をやりながら在宅訪問もするのは無理では?」——在宅を始める薬局で必ず出てくる悩みです。結論、体制の工夫しだいで両立は可能ですが、法令上の制約と現実的な時間配分を理解しておく必要があります。本記事では、法令上の論点の整理から、体制パターン3つの比較表、訪問がある日の1日の回し方、つまずきやすいポイントの対処までを実務目線でまとめます。
管理薬剤師の法令上の立ち位置
管理薬剤師は薬局の管理者として、勤務時間中は薬局の管理業務に責任を持ちます。訪問で店舗を離れる時間帯の管理体制をどう担保するかが両立の核心です。具体的な運用ルールは自治体の薬務課によって指導内容に幅があるため、不安な場合は事前確認が確実です。
混同しやすいのが「兼務制限」との関係です。薬機法上の兼務制限は他の薬局・事業所で働くことに関する論点であり、自局の業務として在宅訪問に出ることとは別の話です。自局の患者への業務として行う在宅訪問はこの「兼務」とは別の論点ですが、店舗を空ける時間帯の管理体制は説明できる状態にしておく必要があります。兼務・副業側の整理は「管理薬剤師は副業できる?薬機法の兼務制限」をご覧ください。
両立を可能にする3つの体制パターン
| パターン | 内容 | 向いている薬局 |
|---|---|---|
| 訪問担当を分ける | 管理薬剤師は店舗中心、在宅は他の薬剤師が担当 | 薬剤師2人以上の薬局 |
| 時間帯を固定する | 処方箋の少ない時間帯(昼過ぎ等)に訪問枠を固定し、店舗側の体制を組む | 応需が読みやすい門前薬局 |
| 応援・パート活用 | 訪問時間帯だけ応援薬剤師・パートを配置する | 1人薬剤師の薬局 |
どのパターンを選ぶかは、「処方箋応需の谷間がどこにあるか」と「薬剤師を何人確保できるか」の2軸でほぼ決まります。最初から理想形を目指す必要はなく、施設訪問など時間の読みやすい案件から始めて、件数の増加に合わせて体制を組み替えていくのが現実的です。
1日の回し方例:訪問がある日のタイムテーブル
薬剤師2人体制で、管理薬剤師が午後に施設訪問へ出る日の動き方の例です。ポイントは処方箋のピーク帯には店舗に立ち、応需の谷間に訪問枠を固定することです。
| 時間帯 | 管理薬剤師の動き | 店舗側の動き |
|---|---|---|
| 開局〜午前 | 店舗で調剤・監査(処方箋ピーク帯は店舗に立つ) | 通常応需 |
| 昼前 | 訪問準備。配薬セット・訪問バッグの最終確認と積み込み | 昼ピークの応需を優先 |
| 昼過ぎ〜夕方前 | 施設・個人宅を訪問 | もう1人の薬剤師が店舗を担当。緊急連絡は管理薬剤師の携帯へ |
| 帰局後 | 訪問記録・薬歴を当日中に入力。店舗で起きたことの引き継ぎを受ける | 不在中の問い合わせ・保留案件を共有 |
| 閉局前 | 報告書作成・翌訪問日の準備。店舗業務に合流 | 通常応需 |
訪問枠を「毎週同じ曜日・同じ時間帯」に固定すると、店舗側のシフトも施設側の受け入れも安定します。逆に訪問時間が毎回変わると、店舗の管理体制の説明も難しくなります。
1週間のスケジュール例(薬剤師2人体制)
- 月・木 13:30〜15:30:管理薬剤師が施設訪問(店舗はもう1人が対応)
- 火・金 午前:もう1人の薬剤師が個人宅訪問
- 水:訪問なし。記録・報告書・翌週準備に充てる
- 毎朝10分、訪問予定と店舗シフトの突き合わせを行う
この例の肝は「訪問なしの日」を必ず1日確保している点です。記録・報告書・翌週準備を平日のどこかでまとめて処理できると、訪問日の残業が膨らみません。訪問件数が増えてきたら、まずこの予備日が潰れていないかを点検してください。
両立のコツは「記録の効率化」
両立でパンクする原因のほとんどは訪問そのものではなく、訪問後の記録・報告書作成です。音声入力やテンプレート化、システム活用で記録時間を圧縮しましょう。具体策は「在宅業務の効率化をDXで実現する」で解説しています。
最低限やるべきは、報告書のひな形を患者タイプ別(施設定期・個人宅・臨時対応)に用意し、訪問中のメモをそのままひな形の項目に沿って取ることです。「メモ→清書」の二度手間をなくすだけで、記録時間は体感で大きく変わります。
1人薬剤師の薬局が在宅を始める現実的な手順
- 応需の谷間を把握する:時間帯別の処方箋枚数を1〜2週間記録し、店舗を離れられる時間帯を特定する
- 訪問枠を週1コマだけ固定する:最初から複数コマ持たない。1コマで運用の型を作る
- 訪問時間帯の店舗体制を決める:パート・応援薬剤師の確保、または処方箋の少ない時間帯での閉局対応の可否を検討する
- 時間の読みやすい案件から受ける:定期訪問が中心の施設や近隣の個人宅など、スケジュールが崩れにくい案件を選ぶ
- 薬務課へ事前に相談する:想定する体制を説明し、指導のポイントを先に把握しておく
キャリアとしてのメリット
- マネジメント(店舗管理)と臨床(在宅)の両輪の経験は、転職市場で希少価値が高い
- 在宅の立ち上げ経験は、エリアマネージャーや開業を目指す場合の強力な実績になる
- 「管理薬剤師手当+在宅の経験値」で年収・市場価値の両方を伸ばせる(訪問薬剤師の年収相場)
「店舗をまとめながら在宅も回せる薬剤師」は、経営側から見ると次の店長・エリア候補そのものです。両立の負荷はたしかにありますが、その経験は職務経歴として明確に差別化できる資産になります。
両立でよくあるつまずきと対処
| つまずき | 主な原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 訪問が長引いて店舗に戻れない | 初回訪問・状態変化時の時間見積もりが甘い | 初回訪問は余裕のある枠に置き、直後に別の予定を入れない |
| 記録が翌日に持ち越される | 帰局後すぐ店舗業務に吸い込まれる | 帰局直後に記録専用の時間をシフト上で確保し、店舗側もその前提で回す |
| 店舗スタッフに不満がたまる | 不在時間の負担が特定の人に偏る | 訪問日を固定し、不在中に事務へ切り出せる業務を明文化して分担する |
| 施設からの臨時依頼で予定が崩れる | 臨時対応のルールが未整備 | 臨時依頼の受付窓口と対応できる時間帯を、施設側とあらかじめ取り決める |
共通するのは「その場のがんばり」で吸収せず、仕組み(枠の固定・分担の明文化・取り決め)に落とすことです。属人的な両立は、担当者が疲弊した時点で崩れます。
在宅を始める前に整えておく管理体制チェックリスト
- 訪問中の店舗側の責任者・連絡フローを文書化してあるか
- 訪問スケジュールが店舗の繁忙時間帯と重なっていないか
- 緊急時(店舗クレーム・行政の立入等)に管理薬剤師へ即連絡できる体制か
- 訪問記録・薬歴の記載を当日中に完了できる時間を確保しているか
- 自治体薬務課への相談・確認を済ませているか(不安があれば事前に)
このチェックリストを整えておくと、行政の指導時にも「体制を考えたうえで運用している」ことを示せます。管理体制の文書化は自分を守る武器になります。
よくある質問(FAQ)
管理薬剤師が在宅訪問で店舗を空けても問題ありませんか?
訪問中の店舗の管理体制を適切に確保することが前提です。運用の細部は自治体によって指導に幅があるため、所轄の薬務課への事前確認をおすすめします。
1人薬剤師の薬局でも在宅はできますか?
可能ですが、訪問時間帯の店舗体制(応援薬剤師・パートの配置や訪問枠の工夫)が必要です。まずは月数件の施設訪問など小さく始めるのが現実的です。
管理薬剤師と在宅の両立で一番の負担は何ですか?
訪問後の記録・報告書作成です。テンプレート化・音声入力・システム活用で記録時間を圧縮できるかが両立の分かれ目になります。
在宅訪問は薬機法の兼務制限に当たりますか?
自局の患者への業務として行う在宅訪問は、他の薬局・事業所で働く「兼務」とは別の論点です。ただし店舗を離れる時間帯の管理体制は整えておく必要があり、運用の細部は自治体への確認をおすすめします。
最終更新日:2026年7月14日
本記事は厚生労働省の告示・通知や公的資料を確認のうえ作成しています。最新の算定要件・点数は各年度の改定内容と原典で必ずご確認ください。

