看取り期の薬剤師の役割|ターミナルケアの実務と心構え

看取り期のターミナルケア

在宅で患者さんを看取る——これは在宅薬剤師にとって最も重い、しかし最も意義のある仕事かもしれません。

「最期は自宅で」という希望を持つ患者さんは年々増えています。しかし、在宅での看取りを実現するには、医師、訪問看護師、そして薬剤師の連携が不可欠です。薬剤師は疼痛管理、症状緩和のための薬剤提供、そしてご家族への精神的サポートという重要な役割を担います。

本記事では、看取り期における薬剤師の具体的な役割と、現場で感じたことを正直にお伝えします。


目次

看取り期とは

看取り期とは、医学的に回復が見込めず、数日〜数週間で死が予測される時期を指します。この時期の医療の目的は「治す」ことではなく、「苦痛を最小限にし、その人らしい最期を支える」ことに変わります。

在宅での看取りを選択するご家族は、大きな覚悟を持っています。しかし同時に、「本当にこれでいいのか」「急に容体が変わったらどうすればいいのか」という不安も抱えています。こうした不安を和らげるために、専門職がチームで支えることが重要です。


薬剤師が担う3つの役割

役割1:症状緩和のための薬剤管理

看取り期の患者さんに最も多い苦痛は、痛み、呼吸困難、不安、不眠、嘔気です。これらの症状に対して、適切な薬剤を迅速に提供するのが薬剤師の最重要任務です。

看取り期が近づくと、嚥下機能が低下して内服薬が飲めなくなることが多いです。この段階で、経口薬から貼付剤や坐剤、舌下剤、注射剤への切り替えを医師に提案します。たとえば、オキシコンチン(経口)からフェントステープ(貼付)への切り替え、あるいは皮下注射によるモルヒネ持続注入への移行です。

呼吸困難に対しては、少量のモルヒネが有効とされています。「呼吸を楽にするためにモルヒネを使う」ということに抵抗を感じるご家族もいますが、エビデンスに基づいた説明を行うことで理解を得られます。

不安・不穏に対しては、ミダゾラムの持続皮下注射が用いられることがあります。この場合、薬剤師はシリンジポンプの設定や残液の確認を行います。

役割2:ご家族への説明とサポート

看取り期のご家族は、極度の緊張と不安の中にいます。薬剤師として技術的な話をするだけでなく、「ご家族の不安に寄り添う」ことが求められます。

よくある質問とその答えを紹介します。

「麻薬を使って寿命が縮まりませんか?」——この質問はほぼ必ず聞かれます。適切な量の医療用麻薬は、痛みを和らげるだけで呼吸を抑制するような副作用は通常起こりません。むしろ痛みが取れることで体力の消耗が抑えられると説明します。

「薬をもう飲めなくなったら、どうすればいいですか?」——飲めなくなること自体は自然な経過です。貼付剤や坐剤に切り替えますし、無理に飲ませる必要はありませんと伝えます。

「急に苦しそうになったらどうすればいいですか?」——レスキュー薬の使い方を具体的に教え、「この薬を使っても改善しなければ、いつでも電話してください」と24時間対応を伝えます。

役割3:緊急時の薬剤供給

看取り期は、容態が急変することがあります。深夜に「痛みが急に強くなった」「呼吸が苦しそう」という連絡が入ることもあります。

このとき、薬局に必要な麻薬の在庫がなければ対応できません。看取り期の患者さんを担当する場合は、事前に医師と連携して「想定される処方」を確認し、在庫を確保しておくことが必要です。

実務的には、レスキュー薬の予備を患者宅に置いておくことも重要です。「これは予備です。次の訪問まで急に痛みが出た場合に使ってください」と、ご家族に渡しておきます。


ターミナルケア加算

看取りに関わった薬剤師は、ターミナルケア加算を算定できます。

項目点数条件
在宅患者ターミナル薬剤管理指導料2,000点死亡日前14日以内に2回以上訪問

この加算は、患者さんの死亡後に算定します。看取りに関わることの大変さを考えれば、もっと高くてもいいのではないかと個人的には思いますが、点数以上の価値がこの仕事にはあります。


看取りを経験して感じること

最後に、筆者自身が看取りの現場で感じたことを率直に書きます。

初めて在宅で看取りに立ち会ったときは、正直に言って心の準備ができていませんでした。病院であれば、看取りは日常的に起こることとしてシステム化されていますが、在宅の看取りは、患者さんの自宅という「生活の場」で起こります。そのリアルさは、想像以上のものがありました。

しかし、看取りの後にご家族から「最期まで痛みが少なくて、薬局さんのおかげです」と言っていただいたとき、この仕事を選んでよかったと心から思いました。

看取りは「悲しい場面」ではあります。しかし同時に、その人の人生の最終章に薬剤師として関われることは、大きな特権でもあると感じています。

在宅薬剤師を目指す方には、看取りの場面にいつか出会うことを覚悟しつつ、その準備として緩和ケアの知識を積んでいただきたいと思います。


この記事は日本緩和医療学会のガイドラインおよび筆者の実務経験に基づいて作成しています。


参考リンク


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この記事を書いた人

薬剤師マルのアバター 薬剤師マル 在宅ファーマ編集長
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