「在宅薬剤師に興味があるけど、自分にできるか不安」——。在宅をやったことがない薬剤師からよく聞く言葉です。
在宅薬剤師の業務は、店舗での調剤とはまったく異なる場面が多くあります。患者さんの自宅に伺い、多職種と連携し、処方提案まで行う。調剤スキルだけでは到底対応できないのが現実です。
本記事では、在宅薬剤師として活躍するために必要な7つのスキルを、実務経験にもとづいて解説します。今の自分に足りないスキルが何か、棚卸しの参考にしてください。
なぜ在宅では「調剤だけ」では足りないのか

店舗と在宅の業務比較
| 項目 | 店舗調剤 | 在宅業務 |
|---|---|---|
| 場所 | 薬局内 | 患者の自宅・施設 |
| 患者との接点 | 5〜10分 | 20〜40分 |
| 情報源 | 処方箋・お薬手帳 | 生活環境・家族の声・バイタル |
| 判断 | 処方調剤 | 処方提案・減薬提案 |
| 連携先 | 処方医(主に電話) | 医師・看護師・ケアマネ・ヘルパー |
| 記録 | 薬歴 | 薬歴+報告書+ケアマネ連絡 |
在宅では「薬を渡して終わり」ではなく、生活全体を支えることが求められます。これが、在宅薬剤師に多様なスキルが必要な理由です。
スキル1:フィジカルアセスメント
なぜ必要か
在宅では医師が常にそばにいるわけではありません。薬剤師が訪問時に患者の身体状態を把握し、異常の早期発見につなげる能力が求められます。
具体的に必要な知識
| 項目 | チェック内容 |
|---|---|
| バイタルサイン | 血圧、脈拍、体温、SpO2 |
| 意識レベル | JCS/GCSの簡易評価 |
| 疼痛評価 | NRS(数値評価スケール)、表情観察 |
| 皮膚の状態 | 褥瘡の有無、浮腫、発疹 |
| 栄養状態 | 体重変化、食事摂取量 |
| 嚥下機能 | 水分・固形物の飲み込み状況 |
身につけるには
- 在宅療養支援認定薬剤師の研修で系統的に学べる
- 訪問看護ステーションとの同行訪問で実地経験を積む
- バイタルサイン測定キットを持参して実践する
スキル2:コミュニケーション力

なぜ必要か
在宅では患者本人だけでなく、家族・ケアマネ・医師・看護師・ヘルパーなど、多くの関係者との意思疎通が必要です。
場面別に求められるコミュニケーション
| 対象 | ポイント |
|---|---|
| 患者本人 | 認知症の方への分かりやすい説明、傾聴 |
| 家族 | 服薬管理の協力依頼、介護負担への配慮 |
| 医師 | 処方提案を論理的かつ簡潔に(トレーシングレポート) |
| ケアマネ | 服薬状況の報告、ケアプランへの提案 |
| 看護師 | バイタル変化や副作用の情報共有 |
身につけるには
- サービス担当者会議に積極的に参加する
- 多職種勉強会や地域ケア会議に出席する
- 「結論から話す」「書面で残す」を習慣化する
スキル3:処方提案力
なぜ必要か
在宅患者は多剤服用(ポリファーマシー)であることが多く、薬剤師からの減薬提案・剤形変更・処方変更の提案が求められます。
処方提案の具体例
| 状況 | 提案内容 |
|---|---|
| 嚥下困難 | 錠剤→OD錠・散剤・貼付剤への変更 |
| 認知症で服薬困難 | 一包化、服薬カレンダーの導入 |
| 多剤服用(6剤以上) | 重複処方の整理、減薬提案 |
| 副作用の懸念 | 腎機能に応じた用量調整の提案 |
| 残薬多い | 処方日数の調整提案 |
身につけるには
- 高齢者の薬物治療ガイドラインを熟読する
- 処方提案の事例集を自分で作る
- トレーシングレポートの提出を習慣にする
スキル4:無菌調剤
なぜ必要か
在宅でがん末期の患者や中心静脈栄養(TPN)の患者に対応するには、無菌調剤(クリーンベンチでの混注作業)が必要です。
無菌調剤が求められるケース
| ケース | 内容 |
|---|---|
| がん末期の疼痛管理 | 持続皮下注射(PCAポンプ)の調製 |
| 中心静脈栄養(TPN) | 高カロリー輸液の混注 |
| 抗菌薬の点滴 | 在宅での抗菌薬投与 |
身につけるには
- 日本薬剤師会の無菌調剤研修を受講する
- 無菌調剤室のある薬局で実務経験を積む
- 設備投資の判断ができるよう、コストも理解しておく
スキル5:ICTリテラシー
なぜ必要か
在宅医療では、移動先でのカルテ入力、多職種との情報共有、オンライン服薬指導など、ICTの活用が業務効率を大きく左右します。
在宅で使うICTツール
| ツール | 用途 |
|---|---|
| 電子薬歴(モバイル) | 訪問先での薬歴入力・参照 |
| 多職種チャット(MCS等) | リアルタイムの情報共有 |
| オンライン服薬指導 | 遠方患者への対応 |
| 電子処方箋 | ペーパーレスの処方受付 |
| スケジュール管理 | 訪問ルートの最適化 |
| 報告書自動生成 | 電子薬歴からの出力 |
身につけるには
- まずは電子薬歴のモバイル版を使いこなす
- 地域の多職種連携ツールに参加する
- デジタルに苦手意識がある場合は、基本的なタブレット操作から
スキル6:経営・マネジメントの視点
なぜ必要か
在宅業務は「訪問すればいい」わけではなく、収益性の管理が不可欠です。訪問件数、移動時間、単価のバランスを考える経営視点が求められます。
在宅の経営指標
| 指標 | 概要 | 目安 |
|---|---|---|
| 訪問件数/日 | 1日の訪問数 | 5〜10件 |
| 1訪問あたりの売上 | 居宅療養管理指導の単位数 | 3,410〜5,170円 |
| 移動時間/件 | 訪問先間の移動時間 | 10〜30分 |
| 時間あたり売上 | 効率の指標 | 5,000〜8,000円/時 |
| 在宅比率 | 全売上に占める在宅割合 | 20〜50% |
身につけるには
- 自薬局の在宅KPIを設定して追跡する
- 管理薬剤師として経営会議に参加する
- 薬局経営に関する書籍やセミナーで学ぶ
スキル7:メンタルケア・自己管理
なぜ必要か
在宅では看取りに立ち会うこともあります。患者さんの最期を共に過ごす経験は、やりがいがある反面、精神的な負担も大きいです。
在宅薬剤師が直面するストレス
| ストレス要因 | 内容 |
|---|---|
| 看取り・終末期ケア | 患者の死に直面する精神的負担 |
| 24時間対応 | 夜間・休日のコール対応 |
| 移動の負担 | 悪天候時の運転、長距離移動 |
| 多職種との調整 | 意見の相違、立場の違い |
| 孤独感 | 一人で訪問する場面が多い |
身につけるには
- チームでの振り返り(デスカンファレンス)に参加する
- 同僚との情報共有・相談の場を持つ
- 自分なりのリフレッシュ方法を確立する
7つのスキルのまとめ
| # | スキル | 重要度 | 習得の目安期間 |
|---|---|---|---|
| 1 | フィジカルアセスメント | ★★★★★ | 6ヶ月〜1年 |
| 2 | コミュニケーション力 | ★★★★★ | 日々の積み重ね |
| 3 | 処方提案力 | ★★★★ | 1〜2年 |
| 4 | 無菌調剤 | ★★★ | 研修+実務3ヶ月 |
| 5 | ICTリテラシー | ★★★★ | 1〜3ヶ月 |
| 6 | 経営・マネジメント | ★★★ | 管理薬剤師就任後 |
| 7 | メンタルケア・自己管理 | ★★★★ | 意識的な取り組み |
すべてを一度に身につける必要はありません。まずはフィジカルアセスメントとコミュニケーション力を土台にして、在宅業務に踏み出すことが最初の一歩です。
この記事は筆者の在宅薬剤師としての実務経験および各種研修・認定制度の公式情報に基づいて作成しています。

