【2026年版】在宅医療の市場規模と将来予測|薬局が知っておくべきデータ

「これから在宅を始めるべきか」「どこまで投資すべきか」と悩んでいる薬局経営者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、厚生労働省をはじめとする公的機関の公表データをもとに、在宅医療の市場規模・成長率・将来予測を整理しました。

データに基づいた判断ができるよう、数字の背景と薬局への影響まで踏み込んで解説します。


目次

在宅医療の市場規模はどのくらいか

まず、在宅医療の市場全体がどの程度の規模なのかを押さえておきましょう。

厚生労働省が毎年公表している「医療費の動向」および「国民医療費の概況」によると、在宅医療にかかる医療費は年々増加傾向にあります。ここでいう「在宅医療費」とは、往診・訪問診療・訪問看護・訪問リハビリ・居宅療養管理指導など、患者の自宅や施設で提供される医療行為全体にかかる費用を指します。

在宅医療費の推移

年度在宅医療費(概算)前年比
2018年約1.9兆円
2019年約2.0兆円+5.3%
2020年約2.1兆円+5.0%
2021年約2.3兆円+9.5%
2022年約2.5兆円+8.7%
2023年約2.7兆円+8.0%
出典:厚生労働省「国民医療費の概況」「医療費の動向」各年版

注目すべきは、2020年以降の急激な伸びです。新型コロナウイルスの流行を機に、外来受診を控える動きが広がり、訪問診療や在宅医療へのシフトが一気に加速しました。それまでは年5%前後だった成長率が、2021年以降は年8〜10%のペースへ跳ね上がっています。

この傾向はコロナ収束後も定着しつつあり、一時的なブームではなく構造的なシフトと見るべきです。国全体の医療費(約48兆円)に占める在宅医療の割合はまだ6%程度に過ぎず、今後さらに比率が拡大していく余地は大きいと考えられます。

市場推移

在宅医療費の内訳

在宅医療費の中身を分解すると、主要な構成要素は以下のとおりです。

項目概算シェア備考
訪問診療(医科)約50%在宅医療の中核。患者宅への定期訪問
訪問看護約20%看護師による療養支援。需要急拡大中
居宅療養管理指導(薬剤師等)約10%薬剤師の在宅業務の主力報酬
訪問リハビリ約8%PT・OT・STによるリハビリ
その他(訪問歯科等)約12%訪問歯科診療、栄養指導など

薬剤師が直接関わる「居宅療養管理指導」の市場は約2,700億円規模と推計されます。全体に占める割合は10%程度ですが、この分野は薬局が主導的に取れる領域であり、年10%以上の伸びを示している成長セグメントです。


なぜ在宅医療は拡大し続けるのか

在宅医療費がここまで伸び続けている背景には、短期的なトレンドではなく、日本社会の構造的な変化があります。大きく分けて3つの要因を押さえておきましょう。

1. 高齢化の加速

最大の要因は、言うまでもなく日本の高齢化です。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の65歳以上人口は2025年に約3,619万人(総人口の29.4%)に達します。さらに重要なのは、75歳以上の後期高齢者の増加ペースです。

75歳以上人口総人口比
2020年約1,872万人14.9%
2025年約2,180万人17.8%
2030年約2,288万人19.2%
2040年約2,239万人20.2%
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」

75歳を超えると、複数の慢性疾患を抱える割合が急増し、通院が身体的に困難になるケースが増えます。認知症の有病率も75歳以降に急激に上昇し、2025年時点で認知症患者は約700万人に達すると推計されています。

こうした「通院できない患者」が増え続ける以上、医療の提供場所は病院・クリニックから患者の自宅へとシフトせざるを得ません。この流れは少なくとも2040年代前半まで続くことが、人口動態からほぼ確実視されています。

2. 病床数の削減と地域医療構想

2つ目の要因は、国の医療政策そのものが「入院から在宅へ」の方向に舵を切っていることです。

地域医療構想のもと、全国の病床数は削減の方向に進んでいます。2025年に向けて約13万床の病床機能の再編が計画されており、特に「慢性期病床」の大幅な削減が予定されています。

具体的には、以下のような流れです。

  • 急性期病床の集約化:大規模病院に集中させ、中小病院は急性期から撤退
  • 慢性期病床の削減:長期入院患者を在宅や介護施設へ移行
  • 地域包括ケアシステムの構築:医療・介護・予防・住まいを地域で一体的に提供

つまり、これまで病院が担ってきた慢性期の療養機能を、地域の在宅医療チーム(医師・看護師・薬剤師・ケアマネジャー等)が肩代わりする構図です。病床が減れば、その分だけ在宅医療の需要は必然的に増加します。

この政策方針は与野党を問わず支持されており、今後の政権交代があっても方向転換される可能性はきわめて低いと言えるでしょう。

3. 診療報酬改定による在宅評価の引き上げ

3つ目の要因は、在宅医療に対する経済的なインセンティブが制度的に強化されている点です。

過去の診療報酬改定では、在宅医療に関する加算が継続的に引き上げられてきました。特に薬剤師の在宅業務に関しては、以下のような改定が行われています。

改定年主な変更点
2016年かかりつけ薬剤師指導料の新設。在宅への動線が整備
2018年地域支援体制加算の要件に在宅実績を追加
2020年在宅薬学総合体制加算の新設(在宅実績のある薬局を評価)
2022年在宅対応薬局への評価をさらに引き上げ。調剤後フォローアップの推進
2024年在宅移行早期加算の新設。在宅医療への参入を後押し

国の方針として「在宅に取り組む薬局を経済的に報いる」仕組みが着実に整備されており、逆に在宅をやらない薬局は報酬面で相対的に不利になる構造が年々強まっています。

今後の改定でもこの傾向が続くことはほぼ確実であり、在宅対応は単なる「加点要素」ではなく「標準装備」になっていく流れです。


薬局にとっての在宅医療のマーケット

ここからは、薬局の視点に絞って市場を見ていきます。

在宅対応薬局の現状

厚生労働省の調査によると、在宅患者に対する業務を実施している薬局の割合は増加傾向にあります。

項目数値
全国の薬局数約62,000軒
在宅業務を実施している薬局約50%(推計)
在宅専門薬局まだ少数(数百軒規模)

ただし、この「50%」という数字には注意が必要です。「在宅業務を実施している」と回答していても、実際の訪問件数が月に数件程度というケースが多くを占めています。

本格的に在宅に取り組んでいる——つまり月30件以上の訪問を継続的に行い、在宅医療を収益の柱の一つとして位置づけている薬局は、全体の10〜15%程度にとどまるとみられています。

この「やっているようで実質的にはやっていない」状態が、裏を返せば新規参入の余地が大きいことを意味しています。地域によっては在宅対応できる薬局が圧倒的に不足しており、医師やケアマネジャーから「在宅をやってくれる薬局が見つからない」という声が頻繁に聞かれます。

居宅療養管理指導の算定状況

在宅薬局の収益の中核となる居宅療養管理指導(介護保険)の算定件数も堅調に増加しています。

年度算定件数前年比
2019年度約1,500万件
2020年度約1,600万件+6.7%
2021年度約1,750万件+9.4%
2022年度約1,900万件(推計)+8.6%

1件あたりの報酬は単一建物居住者の人数によって異なりますが、おおよその目安は以下のとおりです。

区分1回あたり報酬月4回の場合
単一建物1人517円2,068円/月
単一建物2〜9人378円1,512円/月
単一建物10人以上341円1,364円/月

一見すると1件あたりの報酬は大きくありませんが、訪問件数を積み上げることで安定収益を確保でき、さらに薬学管理料や在宅調剤加算などの関連報酬を合算すると、1患者あたり月額5,000〜8,000円程度の収益が見込めるケースもあります。

在宅業務の収益シミュレーション

実際に在宅業務がどの程度の売上につながるか、簡易的なシミュレーションをしてみましょう。

条件数値
在宅患者数30名
月間訪問回数(1人あたり)月4回
1回あたり平均報酬(各種加算込み)約1,800円
月間在宅売上約216,000円
年間在宅売上約259万円

さらに、在宅患者は調剤報酬も発生するため、処方箋1枚あたりの平均技術料(薬学管理料等を含む)を加えると、30名の在宅患者で年間400〜500万円程度の追加収益が見込めます。

薬剤師1名を在宅専任に配置した場合の人件費を差し引いても、十分に採算が合う水準です。


将来予測:2030年・2040年に向けて

ここからは、在宅医療市場の中長期的な見通しを整理します。

2030年の在宅医療市場

高齢化のピークに向かう2030年には、在宅医療費は約4兆円規模に達するとの予測があります(各種シンクタンクの推計値を総合)。

現在の約2.7兆円から4兆円への成長は、年平均約6%の成長率を意味します。直近の8〜10%よりやや鈍化しますが、それでも医療業界全体の成長率(2〜3%)を大きく上回る成長セクターであることに変わりありません。

2030年に向けて予想される主な変化は以下のとおりです。

  • 在宅対応薬局の急増:地域支援体制加算等の要件強化により、在宅対応が事実上の必須条件に
  • ICT・デジタル化の浸透:オンライン服薬指導、電子処方箋、AIによる薬歴管理などが普及
  • 多職種連携の深化:医師・看護師・ケアマネとの情報共有がシステム化される
  • 患者の「選ぶ目」の変化:在宅対応できるかどうかが、患者・家族の薬局選びの基準に

2040年の見通し

2040年は日本の65歳以上人口がピーク(約3,920万人)を迎える年とされています。ここまでの期間は在宅医療の需要は「量的拡大」を続けると考えられますが、その後は人口減少に伴い、市場の質的な変化が起きる可能性があります。

2040年以降に想定される変化としては、以下が挙げられます。

  • 地方の人口減少により、患者の絶対数が減少するエリアが出てくる
  • 薬剤師の人手不足がさらに深刻化し、ロボット調剤やAI活用が不可避に
  • 効率化が生き残りの鍵となり、1薬剤師あたりの生産性が問われる時代に
  • オンライン在宅(遠隔服薬指導+配送)の比率が増加
将来展望

薬局に求められる変化のロードマップ

時期市場環境薬局に起きること今やるべきこと
〜2030年量的拡大期在宅需要の拡大。対応できる薬局に患者が集中在宅体制の構築。医師・ケアマネとの関係構築
2030〜2040年成熟期在宅対応が「標準装備」に。人材確保が最大の課題採用・育成体制の強化。業務効率化への投資
2040年〜質的転換期人口減少による市場縮小。効率化・ICT活用が必須にDX推進。オンライン服薬指導への対応

重要なのは、2030年までの「量的拡大期」に在宅の基盤を築けるかどうかで、その後の生き残りが大きく変わるという点です。先に参入した薬局ほど、地域の医師やケアマネとの信頼関係を築きやすく、後からの参入者と比べて圧倒的な優位性を持てます。


まとめ

本記事のポイントを整理します。

  • 在宅医療費は2023年に約2.7兆円。年8〜10%のペースで拡大中であり、2030年には約4兆円規模に達すると予測される
  • 拡大の背景にある3つの構造要因(高齢化・病床削減・制度的後押し)は、いずれも不可逆的なトレンドであり、少なくとも2040年まで市場拡大は続く
  • 薬局にとっては「今すぐ在宅対応を始める」ことが中長期の生存戦略。在宅患者30名で年間400〜500万円の追加収益が見込める
  • 本格的に在宅に取り組んでいる薬局はまだ全体の10〜15%に過ぎず、先行者優位がはっきりと存在する
  • 2030年以降は在宅対応が「当たり前」になるため、今のうちに体制を整えることが将来の競争力に直結する

在宅医療は「やるべきかどうか」を議論する段階はすでに終わっています。問われているのは「いつ始めるか」「どう始めるか」です。

在宅ファーマでは、こうしたデータをもとに薬局経営に役立つ情報を継続的に発信していきます。在宅業務の始め方、収益モデル、必要な人材・設備については、今後の記事で詳しく解説していく予定です。


この記事のデータは厚生労働省および関連機関の公表資料に基づいています。最新のデータは各機関のWebサイトをご確認ください。


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この記事を書いた人

薬剤師マルのアバター 薬剤師マル 在宅ファーマ編集長

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