在宅医療に関わる職種は多岐にわたります。医師、看護師、薬剤師、ケアマネ、ヘルパー、理学療法士、管理栄養士——チームで1人の患者さんを支える体制では、情報共有の質がケアの質を決定します。
しかし現実には「医師に送ったFAXが届いていなかった」「看護師との連絡がすれ違った」といったコミュニケーションの問題が頻発しています。ICT(情報通信技術)ツールの活用で、これらの課題を解決した事例を紹介します。
在宅医療で使われるICTツール
| ツール名 | 提供元 | 特徴 |
|---|---|---|
| MCS | エンブレース | 医療介護専門SNS、患者別グループ機能 |
| カナミック | カナミックネットワーク | 介護記録と情報共有の統合プラットフォーム |
| バイタルリンク | 帝人 | バイタルデータの多職種共有 |
| LINE WORKS | ワークスモバイル | ビジネス用LINE、既読管理機能 |
これらのツールに共通するのは「患者単位でグループを作り、関係者全員が情報を閲覧できる」仕組みです。
事例1:MCSで服薬状況をリアルタイム共有
80代男性、心不全+糖尿病。関わる職種は医師、看護師、薬剤師、ケアマネ、ヘルパーの5職種。
MCSの患者グループに薬剤師が以下の情報を定期的に投稿しました。
- 訪問時の残薬数と服薬アドヒアランス評価
- 一包化カレンダーの写真
- 血糖値の推移(看護師の記録を参照してコメント)
- 処方変更時の簡易説明
導入前は電話やFAXで個別に連絡していたため、情報が全員に行き渡らないことがありました。MCS導入後は、投稿した瞬間に全員がリアルタイムで確認でき、「いいね」や短いコメントで反応が返ってきます。
効果はすぐに現れました。ヘルパーから「昨日の夕分が残っています」という写真付きの報告が入るようになり、薬剤師が訪問しない日の服薬状況が把握できるようになりました。
事例2:バイタルデータ共有で副作用を早期発見
70代女性、高血圧+パーキンソン病。バイタルリンクを使い、看護師が測定した血圧・脈拍データをクラウド上で共有する体制を構築しました。
薬剤師はグラフを定期的にチェックし、薬の効果判定に活用。ある日、血圧の急激な低下傾向を発見し、3日前に追加されたドパミンアゴニストの影響を疑い報告しました。
データの時間軸と薬の追加タイミングが一目で照合できるのがICTの強みです。紙の記録では見逃しやすい「緩やかな変化」も、グラフ化されることで異常に気づきやすくなります。
事例3:LINE WORKSによる迅速な処方変更対応
認知症の患者さんが転倒し、看護師が訪問先から撮影した写真(腫脹部位)をLINE WORKSで関係者グループに共有したケースです。
医師が写真を確認し、「消炎鎮痛薬の処方を出す」と即座にチャットで指示。薬剤師は在庫確認後「ロキソプロフェン60mgを夕方までに配送します」と返信。ケアマネは翌日の訪問調整を連絡。
この一連のやり取りが30分で完結しました。電話の連絡網方式であれば、各職種への伝言だけで半日かかるところです。
ICT導入のステップ
ステップ1:小さく始める
全患者・全職種を一気にICT化しようとすると頓挫します。まず「複雑なケースの患者1名」でグループを作り、関係者3〜4名で運用を試すのがおすすめです。
ステップ2:ルールを決める
- 投稿のタイミング(訪問後24時間以内)
- 写真のルール(患者が特定できる情報は載せない)
- 緊急連絡は電話、日常共有はICTと使い分ける
- 個人情報保護の遵守
ステップ3:成功体験を共有する
ICTによって「助かった」事例を関係者に共有し、利用のモチベーションを維持します。
ICT活用の注意点
| 注意点 | 対策 |
|---|---|
| 個人情報の漏洩 | 医療専用ツールを使用、個人LINEは避ける |
| デジタル格差 | 高齢のスタッフへの研修サポート |
| 情報過多 | 投稿ルールを設け、必要な情報に絞る |
| ツール依存 | 緊急時は電話を優先するルールを明確に |
筆者の実感
ICTツールを導入して最も変わったのは「安心感」です。自分が訪問しない日にも、看護師やヘルパーの投稿で患者さんの状態が分かる。何かあれば即座に共有される。この安心感は、24時間対応のストレス軽減にも直結しています。
在宅医療のICT化はまだ発展途上ですが、一度体験すると電話とFAXの時代には戻れません。「まずは1人の患者さんから」という気持ちで、ぜひ導入を検討してみてください。

